派遣で働く/派遣の基礎知識

ここまで違う!事務系派遣と製造業派遣(2ページ目)

「派遣」と聞くと、どんな働き方をイメージしますか?同じ派遣スタッフといえど、仕事内容や業界によって働き方はさまざま。事務系派遣と製造業派遣という2つの代表的な働き方から、その違いをみていきます。

中村 天江

執筆者:中村 天江

派遣で働くガイド

リーマンショックの影響は製造業であれほど過酷だったのか?

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製造業派遣特有の背景もある

真冬に仕事だけでなく、住む場も失った人たちの過酷さ。リーマンショック後に行われた製造業の急激な雇用調整を覚えている方は多いと思います。「派遣切り」という悲愴な言葉もここから生まれました。

非正規労働者の雇止め等の状況について」という厚生労働省の報告書から、雇用が打ち切られた派遣スタッフは、製造業で働いていた人が極めて多いことを確認できます。全数調査ではないので一定の留保が必要ですが、少なくともこの報告書からは、事務系派遣では製造業派遣ほどの雇い止めが起きていないように見えます。また、2011年2月現在、改正されるか定かではない派遣法の改正案でも、事務系派遣はネガティブな側面が少ないとして、製造業派遣よりも2年長い5年の猶予が設けられています。

このように、製造業派遣と事務系派遣では、その制度に対する評価が必ずしも一致していません。なぜ、このような違いが生まれるのでしょうか?仕事を失う失職段階と、次の仕事をみつける再就業段階の2つにわけてみていきましょう。

まず、失職局面から。リーマンショック後、製造業派遣で、突如、仕事を奪われた人が多数生まれた背景には、派遣契約と雇用契約が同一視されてしまい、「派遣先がないから」という理由で雇い止めや雇用契約の中途解除がとがまかりとおってしまったためです(詳細は「派遣制度の何が問題なのか?(構造編)」をご覧ください)。

しかも、製造業では、同一の部署で多数の外部人材を活用しており、事務系派遣に比べて、1度の契約解除がたくさんの派遣スタッフに影響をおよぼします。グローバル化が進んでいる製造業では、生産のライフサイクルの短縮化や商品やサービスの多様化が進み、柔軟な生産の構築や業務量変動への対応が求められるため、そこに外部人材ニーズが発生していました。しかしリーマンショックは、その生産サイクルを全世界的にストップさせ、一斉に在庫調整せざるを得ない状況にした。そのため外部人材活用の一番の強みである「調整機能」が逆に仇となってしまったのです。

これら失職時の問題は、派遣スタッフ本人に非がないことがほとんどで、理不尽このうえありませんでした。
 

「雇用の安定」は失職と再就業の確率で決まる

仕事を失ってもすぐに次の仕事があれば、あれほど深刻な状況に追い込まれずに済んだはずです。リーマンショック後、なぜ製造業派遣でそれがうまくいかなかったのか?2つの観点があるように思います。

仕事を探す時、たいていの人はスキルや経験をいかすことができる同業・同職種の仕事をまず考えます。ところが製造業では、大手メーカーの生産拠点の周辺に下請け企業などの生産現場がある(いわゆる城下町化)ことも多く、現場での稼動状況が一致しやすいため、近隣には同業・同職種で求人を出していないことが多い。

さらに、家電のみ、あるいは自動車のみなどのように製造業の中でも特定の業種のみで発生した生産調整であれば、家電から自動車へ、あるいは半導体へ、など業界を超えた仕事紹介ができました。ところが、リーマンショックの時は、日本の製造業の大半でいっせいに生産調整が発生したために、次の仕事(と家)を探そうとしても日本中のどこにも求人がなく、仕事(と家)がみつかりませんでした。

そして、もうひとつ。雇用情勢が厳しくても、人が足りない仕事はありました。ただ慢性的に人材不足にある営業や介護などは対人業務が中心で、製造業派遣と職種特性がまったく異なっているのです。10年、20年の就業経験がゼロリセットになるような転職は望まない人も多く、仮に望んだとしてもそう簡単に実現しませんでした。

事務系派遣でも、派遣スタッフが納得できないひどい雇用契約の打ち切りがありました。働くひとりひとりにとっては、その不条理さはまったく同じです。しかしながら、住居と就業がわかれていること、都市部に居住し、対人業務が得意であれば転職の選択肢が相対的には多いこと、また、本人以外に当面、家計を支える人がいることなどから、中にはきわめて深刻な事態にまではいたらずにすんだ人もいたようです。 
 

派遣労働は「雇用の縮図」

派遣という働き方のすそ野が拡大した現在、派遣には、日雇い派遣で働く人、新卒でそのまま派遣になる人、年収1000万を超える人、派遣会社に正社員雇用されている人など、さまざまな人がいます。製造業派遣と事務系派遣を比較しただけでも、働き方は相当異なっていました。それぞれの働き方を深くみていけば、派遣で働く人のライフスタイルや事情はもっと多岐にわたっている。

ある労働者団体の幹部と、派遣というのは「雇用の縮図」だと、見解が一致したことがあります。雇用の縮図だからこそ、「木を見て森を見た」気にならないようしなければと、わたしは考えています。

派遣制度の構造的な問題については、「派遣制度の何が問題なのか?(構造編)」にまとめました。こちらも参考にしていただければ幸いです。

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