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靴の「底」について深く考えてみる その6(2ページ目)

今回の「メンズシューズ基礎徹底講座」も、引き続きラバーソールについての解説です。時代の変化を予測して作られたものや、開発当初の認識とは全く異なる使われ方が定着してしまったものなど、ラバーソールが「進化」していった系譜が、今回ご紹介するものからは特に明確に読み取れるのではないでしょうか。

飯野 高広

執筆者:飯野 高広

靴ガイド

革靴の意味をも変えたラバーソール!

エアクッションソール

ミュージシャン御用達のイメージが強いエアクッションソール。その特徴的な部分をアップで撮ってみました。黄色の糸はアッパーとインソールそれにウェルトを接合する「つまみ縫い(掬い縫い)」のもので、ウェルトとアウトソールを接合する「出し縫い」は熱圧着で行います

空気をクッション性の味方にする、と言うのは何も発泡ラバーを用いたソールから始まった発想ではありません。その考えが紳士靴の世界で最初に有名になったのは、恐らく「エアクッションソール」、そう我が国では「マーチンソール」とも俗称されるものではないでしょうか。その名の通り「Dr. Martens(ドクターマーチン)」ブランドの靴であまりにお馴染みの、あの半透明のラバーソールです。

このソールの起源は、ドイツの医学博士クラウス・マルテンス(Dr. Klaus Martens)氏が自らのスキーによる足の負傷をきっかけに、古タイヤをベースに1943年に開発したもの。内部のハニカム構造で空気を結果的に封じ込めるこの底材は、靴医学大国の旧西ドイツらしく、1950年代までに足の保護を要する婦人用として基礎を築きます。ただ知名度が国際的になったのは、その評判を聞きつけたイギリスの靴メーカー・グリックス社(R. Griggs)が彼と共に改良を重ね、「Dr. Martens AirWair」ブランドの名で紳士靴として販売を始めた1960年以降です。空気由来の独特な弾力感を持つ履き心地だけでなく、耐水・耐油・耐酸・耐摩耗性にも優れていた為、イギリスでは発売当初、工場労働者や警官それに郵便配達員等に人気の高い底材でした。

ただし、当時のイギリスはいわゆる「英国病」が深刻化して行く時期でもあり、頻発するストを牽引する労働者が履く頻度の高かったこのソールには、次第に「反体制の象徴」の意味合いが付加されます。その繋がりでやがてロック系のミュージシャン御用達にもなる等、開発当初の意図とは全く異なる数奇な運命を辿ったのは皆さんご存じの通り。「空気の封入」なる無二の特性上、底付け方法はグッドイヤー・ウェルテッド製法をベースにしながらも、ウェルトとアウトソールを接合する「出し縫い」は糸ではなく熱圧着で行う(これを「シルウェルト製法」と呼ぶ場合もあります)など、実は製靴技術的にも独自のノウハウが求められる底材でもあります。


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