ヘタな「生もと造り」より、うんと味わいが濃い「速醸仕込み」
香りが伝わらないのが残念。リンゴやヨーグルトのような香りが漂う
酵母室。フルーツヨーグルトのような香りが充満している。タンクの中ではたくさんの酵母が生み出されている。この蔵の使用酵母は、7号と9号のみ。「抱き樽」とよばれる長細いヤカンのような入れ物で温度管理する。今は冷たい。
糖をアルコールに変えてくれるのがこの酵母、味はまさにヨーグルト!
すべては「速醸(そくじょう)もと仕込み」(人工的に酒母を添加する方法)。聞けば「昔ながらの速醸」だとか。「
生もと(きもと)」「
山廃(やまはい)」(空気中の乳酸菌を取り込み時間をかけて酒母を生み出す方法)は行わない。だって「ヘタな生もとより味わいが濃い」のだから。また、「最近、酸度の高い酒が注目されているが、アルコールにならないで酸になってしまった“酸度の高い酒”はよくない」とも。
発酵が始まったばかりのタンク、そろそろ終わりのタンク、さまざまな状態の発酵タンクが並ぶ
もろみタンクから発酵中の酒を味見させていただく。ぴりぴりと舌に刺激があり、甘いような辛いような不思議な味わい。この状態がどぶろく。雑味はない。この蔵は多摩川水系の硬水を利用。硬水からはしっかりボディのある酒になる。
もろみを搾っている、液体と酒粕を分ける作業でもある。酒粕もおいしい!
搾り。もろみの袋を積み重ね。もろみの重さでゆっくりと搾る。下からは、新鮮な絞りたてがほとばしり出る。味見すると、しゅわっと刺激があり苦味がある。新酒らしい固い印象だ。この蔵ではここから熟成の段階に入る。
神亀の真骨頂は「熟成」にある。案外ラフな状況。ちょっと驚いた
雑然としているがここが熟成タンク庫。瓶熟成とタンク熟成があるが、多少の空気が入ったほうがいいと専務。建物ではなく、低温コンテナを積み重ねて倉庫のように設えてある。あったまいい! 投資家用の酒も奥に。今年の春に投資家用の酒が出荷される。
市販の瓶での熟成も多い
タンク置き場の「壁」となっているコンテナの中にも熟成中のボトルがぎっしり。熟成酒をかかえる蔵は、熟成させる「場所」を所有していないと行えないものなのだ。
さあ、お宝のきき酒だ!
色は美しい琥珀色。何も透明な酒がいい訳ではないのだ
きき酒させていただいたのは、お宝の熟成酒ばかり。「大古酒」昭和54年本醸造(色が濃い)、昭和56年純米(香ばしさとコク、後味が長い)、昭和57年純米(酸が強く香ばしさと苦味)、昭和58年純米(色淡くドライ)の4種。
17年熟成の吟醸。やや濃い目の琥珀色で、ボトルにはたっぷりの澱がある
さらに、1994年の純米吟醸が登場。定温ではなく夏の暑さもそのままで保存したもの。熟成させるといったん状態がよくなるが、6~8年目は不思議なことにぐっと下がる。それを超えるとまたおいしくなると経験を語ってくださる専務。ふうむ、まるでワインと同じ!
上澄みを注ぐときれいな色。日本酒に色があってもいいと思える瞬間
澱がたっぷりあるものを、ワインと同じように「デキャンティング」すると、なんとも美しい色に。味は醤油っぽいフレーヴァー。八角などのスパイスの効いた豚肉料理などと面白いかも。
蔵の目印になるのがこの竹林。吹雪のような風が吹き付けるこの日は、竹も必死に見えた
神亀酒造は、嘉永元年(1848年)の創業。昭和62年に全量純米仕込みに変更した。全量純米蔵としては、戦後初だ。とにかくボディのある味わいが特徴で、熟成させてから出荷するところに大きなコンセプトがある。「梅雨が明ける前に新酒に手をつけるようじゃダメだ」と代々言われ続けてきたと専務。この造りに感動し、賛同するファンがじわじわと増えている。
見学中に何度か聞いた「たとえば、鯖の味噌煮とか、脂の乗った魚料理に負けないしっかりした酒を造りたい」という言葉が印象的だった。
関東の空っ風で敷地内の竹林も激しくざわめいている。この気候風土と水、そして小川原専務の信念が、人気の名酒「神亀」を生み出していることを、ざわざわ揺らめく竹林のなかで実感した。
全量純米蔵「秋鹿ファンド」ただいま募集中!
さて、全量純米酒ファンドに話を戻そう。
「全量純米を目指す会」が、あらたにファンド「全量純米酒ファンド2010」を募集を開始した。出資資金で徳島県阿波町産山田錦を一括購入し、全国14の酒蔵がその米を活用し純米酒の製造・販売を行うというもの。 各酒蔵の個性あふれる純米酒が投資家特典で楽しめるようだ
純米酒ファンなら、この機会にぜひ、一口。
5万円の投資は、きっと、アナタの酒ライフを豊かにしてくれるはずだ。
詳しくはこちら。
http://www.zenryojunmaikura.jp/fund/details.php?fid=155