投資信託を購入するなら、利益の計算方法についても理解しておきたいもの。以下のAさんの取引例をもとに手取りの利益を計算してみましょう。
投資信託の手取りの利益を計算してみよう
Aさんが基準価額(1万口あたり)10,000円で購入した投資信託が、1年後に12,000円まで上昇しました。さて、Aさんが今投資信託を売却したら、いくらの利益を得られるでしょう?
下は現在の残高照会の内容です。ちなみにAさんは、この投資信託から毎月1,000円の分配金をうけ取っています。
「個別元本」は平均購入価額を、「取得単価」は個別元本に購入手数料(
税込)を加えた価額をあらわします。
「評価額」は「12,000円×600,000口÷10,000口(10,000口は基準価額の表示単位)」、「評価損益」は「(12,000円-10,100円)×600,000口÷10,000口」でもとめられます。
投資信託の利益(トータル・リターン)=「売却益」+「分配金」
現在の評価損益は「+114,000円」ですが、これはあくまで表面上の利益。売却益は譲渡所得として税金がかかり、売却時には信託財産留保額というコストがかかる場合もあります。つまり、これらを差し引いた残りの金額がAさんの手取りの利益であり、さらに、これまでに受け取ってきた分配金を足したものがトータルの実質利益となります。では、順を追って見てみましょう。まずは売却益から計算してみます。
<手順1>売却時の受取額をもとめる
始めに売却時の受取額を、次の式でもとめます。
・売却時の受取額=(売却時の基準価額-信託財産留保額)×保有口数÷10,000口
Aさんの保有する投資信託が売却時に0.5%の信託財産留保額がかかるものとすると、Aさんの受取額は
{12,000円-(12,000円×0.5%)}×600,000口÷10,000口=716,400円…(A)
となります。
<手順2>投資元本を確認する
次に、購入時に支払った投資元本を確認しましょう。
・投資元本=(購入時の基準価額+販売手数料)×購入口数÷10,000口
上の残高明細には「個別元本10,000円」「取得単価10,100円」とあります。個別元本は1万口あたりの平均購入価額、取得単価はそれに販売手数料・消費税を加えた1万口あたりの取得価額をあらわしたものです。よって取得単価をつかってAさんの投資元本を計算すると
10,100円×600,000口÷10,000口=606,000円…(B)
となります。
なお、投資信託の累投コースを選んでいる場合は、上記の取得単価を使った計算では正確な投資元本を求められません。平均購入価額である「個別元本」は、分配金を再投資することでも変わるからです。よって累投コースを選んでいる人は取引明細の中の「受渡金額」を確認し、実際に支払った金額を把握してください。
<手順3>手取りの売却益をもとめる
売却時の受取額と投資元本を確認したので、次に手取りの売却益を計算します。
・手取りの売却益=(売却時の受取額-投資元本)-税金
売却益を計算すると(A)-(B)=110,400円となります。売却益にかかる税金は株式型投資信託であれば現在税率は20.315%(平成26年から49年まで。平成50年からは20%となります)なので、かかる税金は22,428円…(C)となります。
したがってAさんの売却時の手取りの利益は(A)-(B)-(C)=87,972円…(D)となります。
<手順4>受取分配金の総額を確認する
次に、投資信託から受け取った分配金の総額を確認します。分配金といっても普通分配金と特別分配金の2種類があるのでご注意ください。普通分配金は運用の成果から払い出されたものなので利益ですが、特別分配金のほうは元本からの払い戻しなので利益ではありません。よって、受け取った分配金のうち普通分配金のみを合計する必要があります。
支払われた分配金が普通分配金なのか特別分配金なのか、そしてそれぞれがいくらなのかは、「分配金明細書」に記載されています。普通分配金は配当所得として20.315%(平成26年から49年まで。平成50年からは20%となります。)が源泉徴収されており、明細書には普通分配金から税金を控除した受取額も記載されています。
Aさんの受け取った分配金がすべて普通分配金で、源泉徴収後の金額が毎月1,000だったとすると、
受け取った分配金の合計額=1,000円×12カ月=12,000円…(E)となります。
<手順5>トータルの手取り利益を計算する
Aさんのトータルの手取り利益は売却益と受取分配金総額、つまり(D)と(E)の合計額ですから、
87,972円+12,000円=99,972円となります。
このように投資信託の利益は計算できますが、売却する時点で計算できるのはあくまでも「概算の利益」です。なぜなら投資信託の売買は約定した日の基準価額で行われるので、投資家があらかじめ売却する値段を知ることはできないからです。
相場環境が大きく揺れ動いているときに注文を出した場合は、計算した金額と実際の手取り額にかなりの差が出てしまうこともありうるのでご注意ください。
2014年12月から「投資信託等のトータルリターン通知制度」がスタート
このようなトータル的な収益は、投資家にとって把握しにくいという問題点がありました。そこで2014年12月1日より、「投資信託等のトータルリターン通知制度」が導入されます。原則として2014年12月1日以降に購入したファンドに対しては、販売会社からがトータルリターンが通知されるようになるというもの。これにより今後はわたしたちがファンドの実力をより把握しやすくなりそうです。■関連記事
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