「冬は寝ても寝ても眠い」「食欲が増して太る」……冬季うつ病の症状の可能性も
冬季うつ病は、人間の冬眠なのかもしれません
多くのうつ病は、季節と関係なく気持ちが塞ぎこむのが一般的ですが、ある決まった季節だけに発症するうつ病があり「季節性感情障害」と呼ばれています。夏に起こるものもありますが、ほとんどは秋から冬にかけて憂うつな気分にとらわれ、春になると自然に治る「冬季うつ病」です。
通常のうつ病と同じく、冬季うつ病の場合も、気分の落ち込みや、それまで興味があったことへの関心の薄れなどが見られます。また、集中力や意欲、精力が低下し、疲れやすくもなります。
冬季うつ病に特徴的な症状は、食欲や体重、睡眠時間の増加です。普通のうつ病の場合、食欲がなくなって体重が減り、昼夜を問わず眠ろうとしても眠れなくなります。しかし、冬季うつ病の場合は逆で、特に午後~夜に炭水化物や甘いものが欲しくなります。また、夜の睡眠時間が長くなり、日中の眠気も強く、昼寝や居眠りが増えます。
季節性感情障害である「冬季うつ病」、原因は日照時間の減少
秋から冬にかけて、食事量が増えて睡眠時間が長くなるというのは、クマなどの冬眠する動物の行動と共通した部分があります。そのため冬季うつ病が起こるメカニズムは、日照時間が短くなることに関係があるのではないか、と考えられています。冬季うつ病が注目されたのは、冬の昼が短い北欧に患者さんが多いため。緯度が高い地域へ引っ越すと冬季うつ病になりやすく、逆に緯度が低い地域へ旅行すると症状がなくなることが知られています。
日本でも、南の地方に比べて北日本では、うつ病患者全体に占める冬季うつ病の割合が高いことが、全国53の大学病院の調査で分かっています。また、冬に晴れる日が少ない地方に引っ越したり、日当たりの悪い住居や窓のない職場への異動がきっかけに症状が出ることもあります。
冬季うつ病の患者さんの場合、生体リズムが遅い時間にずれているのが特徴。健康な人に比べて、体温が最も低くなる時刻や睡眠ホルモンとも呼ばれるメラトニンが分泌され始める時刻が、2時間半も遅れています。また、朝、目覚めるころに増えてくる副腎皮質ホルモン・コルチゾールの分泌リズムも、2時間遅れています。
健常者は、夏と冬とでメラトニン分泌時間の長さには差がありませんが、冬季うつ病の患者さんは、夏より冬のほうが長くなっています。このことから、冬季うつ病では昼の時間が短くなることに生体が過敏に反応していると、考えられています。
冬季うつ病の治療に効果が認められている「高照度光療法」とは
季節によって気分が落ち込むのは、主に昼の時間が短くなって太陽の光を十分浴びられないため。そのため、冬季うつ病に対する治療では、明るい光を浴びる「高照度光療法」がまず行われます。高照度光療法では、専用の照明器具の前に毎日1~2時間座って、2500~1万ルクスの光を浴びます。治療の時間帯は朝が特に有効ですが、夕方に行っても効果があります。
通常は、治療を始めてから1週間ほどで症状が改善しますが、中断すると再発することが多いので、冬の間は毎日行うのがよいでしょう。症状が軽い場合は、毎日でなく週に1~2回でも有効なことがあります。
高照度光療法は、専用の照明器具を使えば自宅でも行えます。4万円ほどで市販されていて、インターネットからでも購入可能。照明器具を卓上に置いて、その前で食事をしたり本を読んだりして過ごします。帽子のひさしの部分から光が出る「光バイザー」もありますが、照射される光が弱く効果が一定でないため、あまりお勧めできません。
冬季うつ病の患者さんは睡眠時間が長いのですが、深い睡眠が少なくなっています。高照度光療法を受けると、深い睡眠が増えて睡眠効率が上がり、レム睡眠が減るなど、睡眠の質が改善します。もちろん、抑うつ気分の改善にも有効です。
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