ケルン大聖堂に入ってみよう!

身廊から内陣方向を見上げる

身廊から内陣方向を見上げる。柱と柱に囲まれたアーチとその空間をアーケード、ステンドグラスがはめられたその上の高窓をクリアストーリーという ©牧哲雄

天に舞い上がる構造は外観ばかりではない。柱や柱の装飾、天井の尖頭アーチ、窓の形、すべてが天を突き上げるような構造になっていて、座席に腰掛けて天井を眺めているとまるで空へ吸い込まれるような心地がする。

これがゴシックだ。

朝、十字架の頭にあたる東の内陣から入る陽光は、ゆっくりゆっくりと神の物語を描いたステンドグラスの一枚一枚を照らしながら少しずつ西に移動し、やがて十字架の下部にあたる身廊から大地の底へと沈んでいく。
街から眺めたケルン大聖堂

街から眺めるとケルン大聖堂の威容がいっそう際立つ

ハイシーズンの昼間に行くとあまりの観光客の多さにうんざりするかもしれないが、それでも座席に座ってゆっくりとゴシックの神秘を堪能していただきたい。

大聖堂とは、その建築、その装飾、その歴史、その意義を誇るものでなく、色や形、時間や空間の神秘を見つめる場であり、人間の五官を通じて神と交流を持つ場なのだから。 

ケルン大聖堂と景観問題

ゴシック様式のケルン大聖堂とロマネスク様式の聖マルティン教会

ゴシック様式のケルン大聖堂(左)と、ロマネスク様式の聖マルティン教会(中央)

2004年、先進国の物件では珍しく、ユネスコはケルン大聖堂を危機遺産リストに加えた。というのは、ライン川の西岸にあるケルン大聖堂に対して、ケルン市は東岸に高層ビル群を計画。これが大聖堂を含む景観を阻害して視覚的な完全性(Integrity)を損なうと指摘した。

この決定は驚きをもって迎えられた。というのは、この高層ビルが大聖堂から1kmも離れた場所にあり、また大聖堂は「文化的景観」など景観を登録理由にしていたわけではなく、ビルの予定地は世界遺産のプロパティ(登録範囲)に含まれているわけでもなかったからだ。大聖堂周辺には近代的な駅や博物館、商店街もできており、1kmも離れたビルがいまさらどのように影響を与えるのかなどと、ユネスコに反発する声も多かった。
神々しいまでに輝くケルン大聖堂

神々しいまでに輝くケルン大聖堂

これに対してユネスコは、大聖堂とその周辺が作り出す"skyline"、空を含む文化的景観を普遍的価値を構成する要素として守られなければならないことを強力に主張した。結局ケルン市はビル計画を変更し、高さ制限を設け、バッファー・ゾーン(緩衝地帯)を拡張して対応した。こうした努力が実り、ケルン大聖堂は2006年に無事、危機遺産リストから解除された。

これまで、エジプトのピラミッドやブラジルのイグアスの滝など、世界遺産周辺を通る道路計画が持ち上がったときも、ユネスコは前者に対しては警告を、後者は危機遺産リストに登録して計画を変更させてきた。そしてドイツの「ドレスデン・エルベ渓谷」は、文化的景観を破壊する橋の建設を理由に世界遺産リストから抹消され、世界遺産が世界遺産でなくなった2件目の例となった。

世界遺産とはなんなのか?
世界遺産はどのようにしたら守られるのか?

ケルン大聖堂の景観問題を皮切りに、世界遺産活動はまた1歩、深いステージへと進みゆく。