桃花源里人家と中国画里郷村

宏村

こちらも宏村。西逓と宏村は家並み全体が世界遺産に登録されており、この中で人々は日々の生活を送っている。外には田園と山岳が広がっている

西逓の路地

西逓の路地。道は細く、入り組んでいる

4~5世紀の詩人・陶淵明(とうえんめい)は、『桃花源記』の中で、山に迷い込んだ漁師が桃の林に囲まれた美しい農村を発見する物語を描く。外界から隔絶された環境でつつましやかな暮らしを営むその村は「桃源郷」と呼ばれ、中国の人々にとっての理想郷となった。

イ県は四方を山に囲まれ、その山々はかつて「イ山」と呼ばれたが、現在は「黄山」と呼ばれている。中国の名勝がすべて集まっているといわれるあの世界遺産「黄山」だ。

奇跡的な景観に守られた盆地ということで、イ県は桃源郷のモデルではないかという噂が立ち、やがて「小桃源」の名を冠するようになる。特に西逓の異名は「桃花源里人家」。

また、まるで中国画を思わせる素朴な景色から、いまでは中国中から写生家を集めるにいたり、特に宏村は「中国画里郷村」といわれている。

 

桃源郷と西逓・宏村

西逓の街角

西逓の街角。漆喰の白壁、灰褐色のレンガ、すがすがしい青空、水路を流れる清流……何気ない路地がたまらなく美しい

西逓の牌坊

西逓の牌坊

西逓・宏村の両村を歩いていて感じるのはなんといっても素朴さ。大都会とは空気が圧倒的に違う。

これ、世界のどこでも同じなのだけれど、田舎の村のやさしさというか、たとえば何かを忘れていっても盗まれることはないだろうな、困ってその辺に立っていたらきっと誰か助けてくれるだろうな、そんな安心感というか。

たとえば街角で子供たちが駆けている。おばあさんが水路で野菜を洗っている。お母さんが籠にお茶を入れて道端で売っている。井戸端会議に花が咲いている。軒下で麻雀をしている。こんな何気ない日常の光景がたまらなく美しい。

陶淵明が描いた桃源郷は天国でも黄金の国でも先進の国でもなく、人々が日々天地と会話しながら農地を耕す、ごくごく普通の農村だった。