特別展2「中央ヨーロッパのヴィジョン」
ポーランド人アーティスト、パヴェウ・アルトハメルの自画像バルーンはド迫力(c)Sarah Bauwens
世界遺産の鐘楼内も会場のひとつ
戦火に追われた20世紀。激動の時代を駆け抜けた中央ヨーロッパに、美術はいかに向き合ってきたか? 本企画の監修者でありアントワープ在住の画家リュック・タイマンスは、ポーランド、ドイツ、オーストリア人ら約40人の現代美術家の作品を集めながら、そんな問いに真摯に向き合います。タイマンスは東京オペラシティでも個展が開催されたことのある現代ベルギーを代表する画家。“戦争”や“不安”を題材にとることが多い氏の仕事は、本企画の世界観にそのまま通じるものです。
前衛演劇の鬼才タデウシュ・カントールの魂が宿る作品「死の教室」
いくつか早足で重要な作品をお伝えしましょう。まずはジャンルを超え様々な芸術家に多大な影響を与えた前衛演劇の鬼才タデウシュ・カントールのインスタレーション作品「Dead Class/死の教室」。彼の同名劇で使われた不安気な瞳の子供たちの人形が、教室内で暗闇に浮かぶように展示されます。ナチ支配下のポーランドにあっても芸術活動を続けた意志の人カントールの覚悟が静かに伝わってくるような作品です。マルクト広場に立つ世界遺産の鐘楼内のホールで鑑賞できます。
画家リュック・タイマンスが愛着ぶりを熱弁するアンジェイ・ヴロブレフスキの絵画
続いてタイマンスが絶賛するポーランド人画家アンジェイ・ヴロブレフスキの絵画「Mother with killed son/母と殺された息子」。青ざめた体の幼子の背中には銃弾の痕。物言わぬ息子を慈しみ抱く母親。ガイドも一目見て惹き付けられてしまった作品です。ヴロブレフスキは20世紀半ばのポーランドで最も期待されたアーティストでしたが、わずか29歳で山の事故で亡くなっています。この機会に是非とも広く知られてほしい芸術家です。こちらは市の中心から少々離れますが、旧シトー会大修道院内のグロートセミナリーで鑑賞できます。
世界のMURAKAMIはベルギーでも健在
そしてこの企画、実は目をこらせばアンディ・ウォーホールや村上隆といったヨーロッパ出身ではない芸術家の作品も見受けられます。ウォーホールの場合はスロバキア移民の子ということで納得できますが、では村上は……?
今回タイマンスの友人だという村上隆の作品は2作品がセレクト。フランスのべルサイユ宮殿での展覧会と同様に、ここでも彼の評価は賛否両論のよう。しかしタイマンスは「村上作品は商業的であると批判を受けるが、奥底にはシニックな視点が。原子力災害後のアートがどんなものに似るのかひとつの答えがある」として、アートの“同志”の作品に最大限の敬意を払います。一面的な評価を受けやすい村上作品も、外国の作品と一緒に紹介されることで別の解釈がより浮き彫りになるようです。
ラグビーゴールではありません、これも作品のひとつ
他にもウィージー、ブルーノ・シュルツ、ミロスラヴ・バルカ、ネオ・ラウチ、日本にも根強いファンの多いブラザーズ・クエイ作品などが集結。不安と暴力、記憶と忘却、光と影……、様々な想いやイメージがひっきりなしに喚起させられる刺激的な展覧会であることは疑いありません。貴重なこの機会に是非ブルージュで心ゆくまで芸術三昧を楽しんで下さいね。
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■A Vision of Central Europe(中央ヨーロッパのヴィジョン)
2010年10月22日~2011年1月23日まで
市内の5ヵ所で同時開催
- フォーラム+[コンセルトヘバウ]/Forum+[Concertgebrouw](住所 'tZand34)
- アーレンツハイス/Arentshuis (住所 Dijver16)
- メムリンク美術館・聖ヨハネ施療院/Memling in Sint-Jan-Hospitaalmuseum(住所 Mariastraat38)
- マルクト広場の鐘楼ホール/Stadshallen(住所 Markt7)
- グロートセミナリー/Grootseminarie(住所 Potterierei72)
TEL:+32 (0)50 44 46 60
開館時間:火~日曜9:30~18:00
閉館日:月曜日、12月25日、1月1日
入館料:11ユーロ、65歳以上9ユーロ、6~25歳は1ユーロ