顔や見た目へのコンプレックスが強すぎる……心の病気の可能性も
他人から普通だと言われても、見た目に強いコンプレックスを感じてしまう……。極端になると醜形恐怖症の可能性も出てきます
「自分の見た目は、人よりも劣っている」という強迫観念が、絶えず頭の中にあるとしたら、それは心の病気に近い状態です。過度な美容整形を繰り返してしまい、健康面でも経済面でも、つらい状況になってしまうこともあります。
今回は、自分の体のパーツへの醜形恐怖が日常生活に支障を与えてしまうほどひどくなる「醜形恐怖症(身体醜形障害)」について、わかりやすく解説したいと思います。
醜形恐怖症(身体醜形障害)とは……過度なコンプレックスで日常に支障も
醜形恐怖症(身体醜形障害)の場合、実際の見た目の特徴と、その症状は比例しません。人から見ると別に気になる点がなかったとしても、醜形恐怖症になってしまうことはあるのです。極端に自分の見た目や体のパーツが気になってしまう背景には、そのときどきの流行や社会文化も影響します。例えば、目は一重か二重か、鼻の高さ、口の形など、その時代の流行にあった見た目にしたいという気持ちを持つ人は、少なくないかもしれません。また、美容への意識が高い女性だけでなく、男性も醜形恐怖症になることはあります。
例えばですが、少し太った男性が、自分のパートナーが男性俳優のお尻の形を褒めるのを聞いたとします。ここで、ジム通いして美尻を目指すのは問題がなく、結構なことなのですが、もしも、理想に近づかない見た目を忌み嫌うようになり、人からのからかいやコメントを恐れる余りに、お尻の形が人からわからないように過剰に隠そうとしたり、薄着にならないといけないシーンを避けたりするようになった場合、醜形恐怖症に近い状態と言えます。
醜形恐怖症になってしまうと自分に自信が持てなくなり、他人の視線に対しても敏感になりやすくなります。症状がひどくなると、季節を問わずに、マスクや手袋、コートなどの不自然な格好をしてでも、気になる箇所を隠そうとしたりします。また、自分が嫌だと思っているパーツを鏡で何度も確認したり、さらには、それを見るのが嫌な余り、鏡を避けるようになったりもします。
さらに症状が進むと、自分のコンプレックスを感じる部分を、他人の視線にさらしたくないと思う余り、人づきあいも避けるようになり、社会的に孤立してしまうこともあります。その人の社会的機能が、大きく障害されてしまうのです。
醜形恐怖症(身体醜形障害)の好発年齢・症状の経過・特徴
身体醜形障害の始まりは多くの場合、15~20歳です。異性が気になり出す10代後半は自分の外見に対して敏感になりやすいもの。これに加えて身体醜形障害になると、体のパーツに対する嫌悪感が非合理な程強まってしまい、劣等感に押し潰されそうになります。自分に対して自信が持てず、他人とのコンタクトを避けることは、その人の社会機能に多大の支障をもたらします。しかし自己の思考の非合理性はなかなか認識するのが難しく、精神科を受診するまで何年も経過してしまう傾向があります。コンプレックスを解決する最初の手段は多くの場合、美容整形、皮膚科、歯科などでの処置や手術です。本人は手術が根本的解決につながると期待していても、手術後、しばらくすると症状が悪化してしまいます。症状の強さは時間の経過と共に、強弱の波がありますが、未治療のままでいると悪化していく傾向があり、また、身体醜形障害ではうつ病など他の心の病気を合併しやすい事も問題です。
醜形恐怖症(身体醜形障害)の治療法……外見への努力より、心の治療が必須
醜形恐怖症の場合、自分がコンプレックスに感じている部位を美容整形などで矯正しても、残念ながら解決にはつながりません。醜形恐怖症の真の問題点は、現実と自己認識とのギャップが非合理的なほど拡大していて、強迫観念化してしまっていることにあるからです。一般に、強迫観念が生じる原因は、思い込みではなく、脳にあります。脳内神経伝達物質のセロトニンの働きに問題が生じていることは重要な因子であり、セロトニンの働きを調節する薬が醜形恐怖症の改善に対して有効であることが分かっています。醜形恐怖症に対しては美容整形などの手術ではなく、薬物療法、心理療法を通して強迫観念に対処することが必須の治療法なのです。
コンプレックスに関わる悩みはなかなか人に言いにくいものですが、本人にとっては深刻な問題で、醜形恐怖症のように心の内で不合理に大きな悩みになってしまうことがあります。自己の思考が不合理になっているかどうかは、自分では気付きにくいものですが、もしも強いコンプレックスが常に頭の中にあって気持ちが落ち込みやすく、死にたい気持ちが生じたり、日常生活に悪い影響が出ている時は、心の病気の可能性があることを覚えておいてください。必要と感じた時は、精神科や心療内科での相談を検討してみましょう。