ニカラグアの熱帯雨林地帯のミスキート族に発生する集団憑依現象、グリシ・シクニス。その原因はミスキート族が信じるように森に潜んでいる悪霊のせいなのでしょうか? |
今回は、中央アメリカの国、ニカラグアの奥地に発生する集団ヒステリーを取り上げ、心の病気は文化の影響具合によっては、個人のみならず、伝染病の如く集団的に発生する場合がある事をお話したいと思います。
森に潜む悪霊の仕業?グリシ・シクニス
太平洋とカリブ海に挟まれた中央アメリカの国々の一つであるニカラグア。三角形の形状をした国土は北海道と九州を合わせた程の広さで、人口の多い太平洋側の低地、コーヒー栽培など農業が盛んな中央高地、人口密度の低いカリブ海側の熱帯雨林地帯から成ります。人口の90%以上はスペイン語を話しますが、カリブ海側の熱帯雨林地帯には西洋文明に同化されず、独自の言語、文化を持つ先住民の部族が幾つかあります。その一つのミスキート族にはグリシ・シクニス(grisi siknis)と呼ばれる精神状態に突然、異変が生じる病気が100年以上前から今日に至るまで発生しています。グリシ・シクニスの大部分は若い女性に発生します。頭痛、めまい、吐き気などの前兆があり、突然、金切り声で叫びながら床をのた打ち回り、トランス状態になります。取り押さえようとしても物凄い力を出して抵抗するので、相手が少女であっても、屈強な男が数人必要となります。その場で取り押さえないでいると、服を脱ぎ捨て、裸のまま外へ飛び出し、川に身を投げるか、ジャングルの奥地へ逃げ込もうとします。行く手を阻む者は見境なしに手にしたナタや棒切れで攻撃されます。また、あたかもそこに何かがいるかの如く、目に見えない敵とも戦います。
取り押さえた本人の体には特徴的な異変があり、腹部が盛り上がると、口からクモ、ゴキブリ、髪の毛といった奇妙な物が吐き出されます。元の状態に戻るまでの数ヶ月間、危険な行動を防ぐ為、身体拘束されます。元の状態に戻った後、何が起こったのか本人に尋ねると、「森から悪霊がやって来て、自分を連れて行った」と言った類の話をします。また、グリシ・シクニスには伝染病のように次から次へと発生する性質があり、数年前、ミスキート族のある村では人口の約4分の1がこの病気に罹りました。ミスキート族ではグリシ・シクニスは森に潜む悪霊の仕業と信じられています。
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