長い休みが明けた後には、オフィスのあちこちでこんな光景が…… |
そんな人は、睡眠相後退症候群 という病気かもしれません。今回は、最近増えてきたこの症候群について、詳しくご紹介します。
周りにこんな人はいませんか?
睡眠相後退症候群 というのは、「 睡眠の時間帯が、好ましい時刻よりも遅い時間帯で、持続して固定されている状態 」のことです。この病気の人は、寝つくのは遅い時刻ですが、毎日ほぼ一定で、いったん寝つくとグッスリ眠ることができます。睡眠時間は、長めのことが多いようです。この状態が数ヶ月~数年も続くので、普通の社会生活を送るには、かなりの不都合が生じてしまいます。
残念なことに、遅れた睡眠の時間帯を本人の努力で早めることは、ほとんど不可能です。入学試験や恋人とのデートがあるときでも、本人の強い意志にもかかわらず、朝、起きることができません。そのため、朝から予定がある場合には、徹夜して備えることがよくあります。
無理をして早い時刻に起きると、頭痛や頭が重い、食欲がない、疲れやすい、集中できない、眠いなどの症状が現れます。しかし、これらは午前中だけのことが多く、普通は昼過ぎにはなくなり、夕方近くなると逆に調子が出てきます。朝の体調不良が続くと、自信がなくなる、気持ちが落ち込む、ヤル気がなくなるなどの、抑うつ状態になることもあります。
次の項目に当てはまる場合に、睡眠相後退症候群 が疑われます。
- 十分な努力にもかかわらず、望ましい時刻に寝つくことが困難である
- 起きる意志は強いのに、社会生活を送るために必要な時刻に起床できない
- 自然に眠りにつくと、睡眠の質は良く、睡眠時間も十分である
- 睡眠の時間帯が遅れた状態が、少なくとも1週間以上続いている
努力しても、起きられません!
アラームを無意識で止めてしまい、そのことさえ覚えていません |
そのため、睡眠と覚醒のリズムは遅れる方向になりやすく、早める方向にはなりにくい性質があります。つまり、人間はもともと、夜更かしの朝寝坊にはなりやすいけれど、早寝早起きはしにくいものなのです。
睡眠相後退症候群 は、思春期から青年期に発症することが多く見られます。この病気を持つ人の割合は、日本の高校生を対象とした調査では0.4%、15~59歳の一般市民を対象とした調査で0.13%と、報告されています。
また、アメリカでは、睡眠障害のクリニックを訪れた人の約1割が、この病気と診断されています。
体内時計そのものが故障していたり、体内時計を調整する働きが上手くいかないため、睡眠相後退症候群 になると考えられています。また、この病気の人は睡眠時間が長いことが多く、体内時計をリセットする時間帯に十分な光を浴びられないことも、睡眠時間帯が遅れたままになってしまう原因の1つです。
長い休みの間に昼夜逆転の生活をしていたり、受験勉強のため夜遅くまで起きている生活が続くと、睡眠相後退症候群 を発症しやすくなります。健康な人でも、長期休暇の後には生活のリズムが崩れることがありますが、休み明けには元に戻ります。しかし、この病気では、睡眠と覚醒のリズムが元に戻らなくなってしまうのです。
不登校や引きこもり、うつ病、統合失調症など、社会との接点が減ったり、十分な太陽の光を浴びない状態でも、同じような症状を起こすことがあります。
また、平均9時間以上の睡眠が必要な 長時間睡眠者 は、朝に太陽の光を浴びにくいので、体内時計のリセットが起こりにくく、そのため睡眠相が後退してしまうことがあります。
起きる時刻を遅くしていきます
朝に浴びる強い光は、体内時計を正しく調整する最強のものです |
そのため、睡眠相後退症候群 の治療には、本人の強い意志と周囲の協力が、長期間にわたって必要です。
ここでは、睡眠障害の専門の医療機関 で行われている、主な治療法をご紹介します。
■ 生活指導
基本的には、睡眠の環境を整えたり、生活習慣を改善したりすることが大切です。軽症の場合には、生活指導だけで睡眠の時間帯が、元に戻ることがあります。
・ 朝、日光を十分浴びる
・ 目を覚ましたら、朝食を摂る
・ 日中には、戸外で体を動かす
・ 夕食後は、アルコールやカフェインを摂らない
・ 寝つく予定の3時間前から、照明を少し暗くする
・ 就寝前には、テレビゲームやビデオ鑑賞を避ける
■ 時間療法
睡眠相後退症候群の人は、遅くまで起きていることには慣れているので、寝つく時刻をさらに遅らせます。そして、起床時刻も毎日3時間ずつ遅らせて、1週間ほどで、目標とする起床時刻になるようにします。望ましい起床時刻になったら、しばらくその状態を保って、習慣化します。多くの場合、専門の医療機関に入院して治療します。
時間療法はとてもよい方法ですが、効果が1ヶ月くらいしか続かないことがあります。そのため最近では、次に述べる高照度光療法やメラトニンなどを、組み合わせて治療することが一般的です。
■ 高照度光療法
朝、目から入った強い光は、脳の体内時計に作用して、生体のリズムを早める働きがあります。これを利用して、起床後に1~2時間、2,500~1万ルクスの光を浴びるのが、高照度光療法です。治療中、ずっと光を見つめている必要はありませんが、1分間に数秒以上は光を見つめないと、十分な効果が得られせん。
■ メラトニン
睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンには、体内時計をコントロールする働きがあります。薬事法の関係で、日本国内では売られていませんが、個人輸入や海外旅行の際に、手に入れることはできます。希望する入眠時刻の1~2時間前、あるいは前の夜に寝ついた時刻の4~5時間前に、メラトニン1~3mgを飲みます。約4割の人に効果があります。
■ 睡眠薬
寝つきたい時刻の直前に飲む、という通常の使い方では、ほとんど効果がありません。睡眠の時間帯を前にずらす働きを期待して、作用時間が短い睡眠薬を、希望する就寝時刻の5時間前に内服します。
休みが終わっても、夜更かしの朝寝坊のパターンがなかなかとれないときには、睡眠相後退症候群 かもしれません。睡眠環境を整えたり、生活習慣を変えても治らない時には、睡眠障害の医療機関 を受診することをお勧めします。