無口で会話が苦手……会話下手な人は生きにくい時代?
世の中が変わり、働き方が変わることで、コミュニケーション力が求められるようになった
私の記憶が正しければ、90年代半ばくらいまでは会話下手なタイプの人に対する世の中の評価は、さほど低くありませんでした。この頃までは、仕事においては決まった作業を黙々と遂行する力を求められる職業が現代より多く、コミュニケーション力より真面目に一つのことに取り組める力を評価する職業が多かったのです。また、人員の流動性が低い時代でしたので、同じ職場で同じ仲間と継続してかかわることができ、仲間が自分の寡黙な特性を了解し、コミュニケーションのフォローをしてくれることが多かったのです。
ところが、2000年代以降は作業の多くが機械やコンピューターに置き換えられ、しかもめまぐるしいスピードで最新のサービスが生まれています。今の時代、決まった作業を黙々と遂行する仕事の多くは機械が担っています。AI化、IoT化が進むことで情報収集、調査や分析のような高度な知的作業もコンピューターが担うようになります。こうした時代背景のなか、企画、開発、交渉などを通じて新しい価値を生み出すこと、人間にしかできない力を活かすことこそ、働く人に求められる資質であると評価されるようになりました。コミュニケーションは、その基本となる力なのです。
もう一つの大きな要因としては、グローバル化があります。国内での需要が飽和した日本では、多くの企業が海外に進出し、主に新興国のマーケットに活路を見出そうとしています。「日本」という環境の中だけで生きている限り、会話の努力をしなくても、「あうん」の呼吸で伝達できることが多いものです。しかし、海外の人々との関わりが増えると、お互いの意見を確認したり、常識や文化の違う人との意思の疎通をはかっていくためには、常に言語的、非言語的なコミュニケーションの努力をしていかなければなりません。
このように、IT技術とグローバル化の促進によって日本の社会が劇的に変化したことにより、求められるコミュニケーションのレベルが飛躍的に向上していったのです。
話すのが苦手なら「会話は無理せず少しずつ」が基本
ではこうした時代背景の中、会話下手な人はどのようにコミュニケーション力を高めていけばよいのでしょう?大切なのは、日常で少しずつでも話す機会を広げていくことです。自分から話すのが苦手な人は、まずは「あいさつ」だけでもはっきり伝えるようにしてみましょう。
出社時や退社時に、下を向きながら「おはよ……ございます……」「お先……失礼しま……」と消え入りそうな声であいさつをしていませんか? 一人の人に対してでもよいので、相手の目を見て少し口角を上げ、「おはようございます」「お先に失礼します」と言ってみましょう。
あいさつが与えるインパクトは、大きいものです。気持ちよくあいさつをしてくれる人に、悪い印象を抱く人は少ないものです。
基本的なあいさつに慣れたら、次は「一往復半のあいさつ」にトライしてみるといいでしょう。「おはようございます」「お疲れさまでした」などの紋切型のあいさつを往復した後、さらに一言加えてみることです。「今日はいい天気ですね」「雨が降りそうですね」というように、一言でいいのです。
紋切型のあいさつをきっかけにして、次の言葉を投げかけると、比較的にスムーズに会話をすることができます。まずは、実験のつもりで隣の人とこの会話のやりとりをしてみましょう。このやりとりを意識して続けていけば、あいさつへの不安や苦手意識が薄らぎ、周りの人とも話しやすくなっていくのではないかと思います。