仕事の厳しさを学ぶことができるか?
次に彼女が指摘する「社員が丁寧に仕事を教えてくれる」ポイントを考えてみよう。これはそのお店の人材マネジメントの方針によることは間違いない。『梅の花』は懐石料理店であり、法要料理も扱うお店。味は当然ながら、ご年配のお客様が多いことを考えると、失礼な接客はできない。よって、作法や知識はもちろん、接客マインドまで当然しごかれることになる。目の前で刺身を捨てるのはその証左だ。マニュアルではなく、接客の姿勢を丁寧に教えてくれるのは、そのお店の人材マネジメントの方針の表れでもある。一方、「その辺の人に聞いて」と指示する寿司屋はどうだろうか。おそらくこのお店の人材マネジメントは、接客ではなく効率に全ておいている。接客に重きを置かない客層であれば、当然アルバイトスタッフの育成に時間をかけることはありえない。使えないアルバイトなら入れ替えた方が工数は少なくて済むという事だろう。考えてみれば確かにそうだ。安い寿司屋に接客は誰も期待していないのだから。
私が大学1年生の時にアルバイトした小僧寿しの店長は厳しかった。最初はシャリを炊くことを学ぶのだが、時間やお酢、混ぜ方などには当然決まりがある。うっかりミスをして美味しくないシャリを作ってしまったとき、店長は無言で私の目の前で、大量のシャリをゴミ箱に捨てた。私は物凄くショックで、それからは絶対ミスなんかしない、シャリをゴミ箱に捨てるなんて無様な真似はしないと思ったものだ。店長はきっと、私を成長させるために、あえてあんなことをしたのだろう。でも、店長に育てる気が無ければ、ただ怒ってマニュアルどおりやれと言っただけだろう。それでは馬鹿な私は、同じミスをまたしたかもしれない。
部下を育てるという事は、かなりの労力を使うことだ。いつ辞めるか分からないアルバイトに、そんな気持ちなんか込められないと思うのは、仕方ないことだろう。
でも、サービスを効率化するのではなく、心を込めてお客様をもてなすことを大切にしている飲食店なら、そのもてなす心をアルバイトであっても持ってもらわなくて困る。きっと社員はガンガンしごいてくれるだろう。また、料理一つ一つ心を込めて作ることを教えてくれるだろう。料理の質を維持するために必要な専門知識も、ちゃんと教えてくれるだろう。
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アルバイトで学ぶべき重要なことは、「働くことへのプライド」だと思う。「プライド」を保つには、その仕事に対して責任を持たなくてはならない。責任を持つには、その専門知識を得ることは必須であり、その仕事一つ一つに心を込めなくてはならない。
「働くことへのプライド」を持つ学生を人事担当者は必要としている。
そんな社会人として「当たり前のこと」を、もう入社してから教えてくれる会社なんて、ない。
※自己PRでアルバイトのことを語るなら、この「働くことへのプライド」を伝えなくてはならない。失敗したことをネタに、心を込めて働いていたことを具体的に伝えよう。
※何も効率重視の飲食店では、何も学べないとは言わない。ただ、何か胸にストンと落ちることを実践するには、接客や調理にこだわりを持つ飲食店のほうがより成長できると思う。