「書類をホチキスでとめる時、どこを止める?」
「左上ナナメ一点止め」
私は即答した。ジョーシキだからだ。
正確には、横書きのものは左上。縦書だと右上。
なぜ「ナナメ」なのかと言えば、ナナメ止めの方が、書類をめくった時破れにくいという理由らしい。
「だよね…でも私、大学の時、教授に逆を教えられたんだよ。『みんなそんな常識も知らないのか!』って言われて」
「逆って?」
「横書きのものは、右上にとめるの」
「なんで!」
「横書きの文集は、『左→右』に文章が流れるでしょ?だから紙も、左から右へめくれるように、「右上」を止めなさい、と言われたの。
確かにそちらの方が読みやすいと思って、会社に入ってからも、提出物は右上を止めるように心掛けていたんだけど…」
「逆だって」
「そうだよね…先輩に、『ホチキスで止めたままの書類をファイリングすると、右上では開けないでしょ』って言われて、ああなるほどって」
その時…「右上にとめる」のも「一理ある」と思ったんだ。
ファイリングの問題さえクリアすれば、右を綴じた方が読みやすいかもしれないって…。
「は―――」
コーヒーを飲み干して、大きくのびをした。
『上司に書類を提出する時は、少しずらして紙はさみに止める』ことがジョーシキかはさておき、のりちゃんに、ホチキスの止め方を教えた教授と同ように、『そうする理由』が、この会社にはあるのだろう。
まずはこの会社の「常識」を知ろう。
「常識」とか「非常識」とか、決めるのはそれからだ。「非常識」だと、もっと良い方法があるとわかったら、その時提案しよう。
…ちょっとすっきりした気がした。
「常識」なんて、会社によっていろいろなのだ。
…でもまあ、お金を普通郵便で送るのは、どこの会社でも非常識だからね。これとはレベル違うハナシだからね。
「そんなこと今は知ってますよ。常識です!」
噂では係長になったらしい後輩が、口を尖らせて言う顔が想像できて、ちょっと笑った。
(「一般事務」メールマガジン248号「コラム」で紹介しました、読者さまからのエピソードを元に書き下ろしました。ありがとうございます!)
※このおはなしは、フィクションです
事務員さんは見た!『電話応対の極意?』の巻
ベテラン電話交換手のスーパースキルとは!?
「事務員さんは見た!」 『脅威の記憶力』の巻
脅威の記憶力が培われた、ちょっと悲しい理由とは!?
事務員さんは見た!『あたりまえの結果は…』の巻
普段気づかないくらい地味だけどジツは責任重大な仕事とは!?
息抜きにどうぞ!