「平均」がない障害者アスリートへの栄養サポートの実際
2008年の北京パラリンピックに同行し選手の食事相談を行った。ふだんから簡単なレシピや保存がきく食材の資料を渡すなど、食生活に興味をもってもらうように関わっている。 |
障害者アスリートへの栄養サポートについて詳しく聞かせていただけますか?
内野さん:
障害者アスリートには、平均や一般的という言葉や数値が通用しません。障害によっては身体を動かしても汗がかけなかったり、稼動できる身体領域が少ないことで消費エネルギーが少量だったりして、健常者のアスリートでは考えられない状況が多々あります。指導が最も難しい点は、選手と一緒に試行錯誤しながら、個々の体重を見ながらケースバイケースで取り組んでいます。
ガイド:
どんな相談が多いですか?
内野さん:
「一人暮らしで何を食べたらよいかわからない」というのは多いですね。買い物が大変なので、同じメニューの繰り返しになってしまいがちです。排便が困難なため食べない、飲まないというケースもあります。筋肉をつけようと体重を増量したが、麻痺した足に贅肉がついてしまい競技に悪影響が出ることもあります。「局所的にやせることはできないか?」などの質問は、障害者ならではかもしれません。前向きに取り組めるようにいつも話しています。
「食生活を改善したい」という気持ちを引き出す工夫
ガイド:
どのような提案をしますか?
内野さん:
まずは、食生活を見直してみよう、改善してみようと思える意欲が惹起されることが大切だと思っているので、そのような気持ちになってもらえるよう試行錯誤しながら仕掛けます。記録が伸びない原因について、休養不足か、体脂肪がたまりやすい生活習慣をしていないかなどを一緒に話しています。
ガイド:
選手や監督、コーチからどのような要望がありますか?
内野さん:
筋肉をつけたいのだけれど何を食べたらいい? という選手がいますが、自分が変える気持ちにならないと、食生活は変わらないのが現実です。
監督やコーチは、選手が栄養サポートを受ける環境を持つことで、競技へのモチベーションが上がることを期待しています。選手と栄養士が食事の話をするなかで、監督やコーチが拾いきれない選手の感情の機微や生活環境などが見えてきます。選手に起こっているさまざまな状況を多職種が連携して把握し、トータルサポートすることが大切だと感じています。
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