パリまで行って取得したDAFAの合格証書。これが川地さんの新しいキャリアの扉を開いた。 |
お花の挿し方を教えるだけでなく、プラスアルファのレッスンを
---現在、横浜と川崎にあるフラワースクールで、2クラスを受け持っていらっしゃるということですが、実際にお仕事を始めて、レッスンの中で大変だなと思うことや、ご自信で工夫していることはありますか?レッスンでは、生徒さんがご自分で挿したものを私が直していかなくてはいけません。なぜ直す必要があるのかを説明して、納得してもらわなければ、教わっているほうもおもしろくないし、ちゃんと身についていかないと思います。それは話す要領とか技術ではなくて、教える側に納得させるだけの知識があるかどうかだと思っています。
また、レッスンの前には、自分が前にやったことがある内容のものでも、資料と写真を全部出してきて目を通します。ちょっと自信がないときは、花材を買って、一度全部挿してみることもあります。それからレッスンで使う花材に関する豆知識みたいなものをノートにまとめておくようにしています。
例えば、クリスマスシーズンであれば、「もみは、昔から宗教的な意味があって、ヨーロッパでは、暖炉のところにリースにして魔よけとして使われてきたんですよ」というようなことですね。ただ、「枝をこれくらいに切って、こう挿してください」って言うよりは、楽しんでいただけるかなと思っています。勉強するなら人に教えることが一番と良いとよく言われますが、それは教えてみると実感としてわかります。もっと勉強して、もう少し教えることを楽しめるようになりたいですね。
---生徒さんの年齢の幅の広さは、大変ではないですか?
年上の方が多い教室は、ワンピースを着るなど、服装にも注意して、生徒さんに不快感を与えないようにしています。また、年代によっては、自分のお花のやり方が確立されている方もいらっしゃるので、逆にそういう方にこそ、「些細なことですけど、これだけでずいぶん違うんですよ」って教えて差し上げると、喜ばれますね。
それと講師が年下という特権かなと思うのですが、年上の方が、「今更こんなこと聞いたら、笑われるかしら」というようなことも、気軽に聞いてもらえるようです。また、同世代の方や若いお母さんたちでしたら、子育てや幼稚園の話にも参加して、お友達感覚のところも残しながらも、楽しくやっています。
---長年、お花を習われてきて、今は、お花で収入を得る立場になって、いかがでしょうか。
今、個人的にステンドグラスを習っているんですが、習い事のお金を自分で出せるというのは、気持ちがいいですね。「ステンドグラスに使うガラスを奮発しよかな」って思ったり。そういう意味で、気持ちの上での自由度は、高くなったと感じます。
「子どもの頃、父の家庭菜園の手伝いをしました。2人並んで違う方向を向いて、同じことをしてる空気。会話はないけど、会話をしたようなつながりというか満足感がありました」 |
これから何かを始めたい人へのメッセージ
私が、今の仕事をスタートさせた時は、「今どうしても、お花の仕事を始めたい」というような強い気持ちがあったわけではありませんでした。子どもも小さかったですし。でも、あと数年後には、子どもたちからは手が離れますし、主人も仕事で忙しくしていますし、私は何もすることがなくなってしまう。そのときに、自分の世界を持っていたいという気持ちがありました。今もまだまだ時間のやりくりが大変ですが、何年後かの自分が子育て以外に何かを持っていたいと思います。子どもがもう少し大きくなったら、自宅の2階に空いている部屋があるので、家で教えることができるといいなと思っています。これから何かを始めたいという方も、何かをしたいと思って、始めたのであれば、それを続けていくことが大事だと思いますよ。
「手をかけすぎてもいけないし、ほったらかしてもだめ。お花や植物の世話って、子育てに似ています」 |
ご本人も「すぐにでも教えられる」と先生から太鼓判を押してもらったにもかかわらず、時間と費用をかけて資格を取るなど、”仕事としてお花と関わっていくこと”にこだわられました。一見、回り道のように思えても、資格を取ることで自信をつけ、結局は、より長くより確実にお仕事を続けていくことができます。非常に堅実な印象を受けました。
川地さんは、教える立場になった現在でも、研究科に在籍して、さらに勉強を続けているそうです。川地さんのお花歴は確かに長くて、この記事を読んでいらっしゃる方は、ご自分と比較して「これから始めるには遅いのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、遅くとも今からでも始めないことには、何も起きません。
自分の好きなことを仕事にしたいと思っていらっしゃる方には、前回ご紹介した料理研究家の佐藤さん、そして今回の川地さんは、素敵なモデルケースとなるでしょう。