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眠った労働力も戦力に~子連れ出勤(2ページ目)

昨今の企業経営では、経済環境の変化でワークシェアリングを実現させたいのが本音。子連れ出勤という斬新な就業スタイルを導入している企業、モーハウス(モネット有限会社)をご紹介します。

執筆者:石原 敬子

モーハウスの「子連れ出勤」

本社勤務風景
「小さく働く」を束ねることで、有能なたくさんの個性と「人財」が頼れる戦力に
モーハウスでは、約10年の間に、150人の母親が子連れ出勤を体験。子連れのスタッフの勤務時間は短く、光畑氏はこれを、「小さく働く」と表現します。大勢のスタッフを同時に抱え、業務全体をカバー。

そう、まさにワークシェアリングを実践している企業なのです。

勤務時間が少なくても、従業員ひとりにかかる労務管理のコストや手間はほとんど変わりません。小さく働くスタッフが多ければ多いほど大変です。しかし、モーハウスではそれも覚悟の上。むしろ、フルタイムで必要最小限の人数を雇うのに比べ、得られるメリットの方が大きいとのことです。

例えば、商品のモニター。イベント時や繁忙期など一時的に必要になる場合の人手。前職で身につけた多様なスキルの活用――など。

モーハウスでは、本社、青山の直営店、つくばの百貨店の主に3つの職場に、「小さく働く」スタッフがいます。子どもは、それぞれの職場に合ったスタイルで、仕事をする母親の傍らで過ごします。

デスクの後ろのベビー布団で遊ぶ赤ちゃん、授乳しながらパソコン入力や事務作業をするスタッフ、スリング(抱っこひものような布)で子どもを抱えながらの接客、何事もないようなそぶりでおむつ交換……。とても自然に、仕事の中に育児が溶け込んでいるそうです。

「子連れ出勤」特殊な例にあらず

実を言うとガイド石原は、モーハウスの授乳服のヘビーユーザー。授乳服とは、赤ちゃんに授乳をする際に肌の露出がほとんどなく、赤ちゃんをだっこしているだけのように見える機能を持つ洋服です。外出時には、重宝します。

このような製品を取り扱っているからこそ、モーハウスは育児中の女性と社会のつながりに関心が高いのでしょう。

「ああ、だから子連れ出勤が可能なのか」と思うことなかれ。

モーハウス代表の光畑氏は、子連れ出勤が可能な企業と可能でない企業があることを認めています。しかし、社内ルールや職場周辺の設備に少し手を加えることで、可能になる職種はどの会社にもあるはずです。

同社でも、縫製など子どもがいると危険な業務もあります。子どもがいては難しい思われる業務には、社内環境を整えたり配慮をしたり、新たなルールを取り入れるなど対応をその都度考え、子連れ出勤を実現させてきたそうです。

子連れ出勤には、会社側のしてほしい仕事とスタッフや子どもに無理がない勤務シフトをお互いにすり合わせるなど、会社側の柔軟な受け入れ態勢が欠かせません。一事が万事、通常はマイナス要素と思われることも、別の角度から見てプラス面を探すなど、様々な壁にぶつかる度、善後策を考えてクリアしてきたのではないかと思われます。

成功の秘訣は、子どもたちをお客様扱いせず、必要以上の神経を使わないところだといいます。子どもはあくまでも仕事をする母親についてきているだけ、という扱いです。周囲も子連れの母親も、余分な気遣いをしないのだそうです。

「小さく働く」労働ニーズ

外に出て働かず子育てに専念している人の中には、閉塞感を訴える人が多いのはよく聞く話です。多くは、「子どもはかわいいし、家庭環境に不満はない。でも、社会から取り残されているのではないかという焦りのようなものがある」というような気持ちのようです。

子育て期、特に乳幼児期の子どものお世話は本当に大変です。だからこそ、隣の芝生がより青く見えてしまうのでしょう。子育て・家事という社会生活の重要な部分を担っているので、決して社会との距離を感じる必要はないとは思うのですが、実際、閉塞感・疎外感を訴える人は少なくありません。

そういった人たちの日常生活の中に、少しの時間だけでも「就業」による新鮮な風が吹くのは、個人にとっても、社会にとっても、ひいては日本経済にとっても良いことなのではないでしょうか。

女性が「子どもができても職業を続ける方がよい」という考えを持つ人は、年々増加しています(内閣府「男女共同参画社会に関する世論調査」)。子育て時期の働き方として、選択肢が増えるのは良いことです。一昔前の農家や商店には当たり前のように行われていた、「仕事をしながらの育児」というライフスタイルが、改めて、選択肢の1つとして見直されてもよさそうです。

そうはいっても結構難しい? 子連れ出勤という就労スタイルは実現可能か、次のページで考えてみましょう。
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