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逮捕・保釈の基礎知識(2ページ目)

人はなぜ逮捕されるのか。そして保釈の条件とは。また、全面否認でも保釈されるきっかけとなった新制度「公判前整理手続」とは。根本から実際まで、わかりやすく解説していきます。

執筆者:辻 雅之

1ページ目 【逮捕についての基礎知識~なぜ人は逮捕されるか】
2ページ目 【保釈についての基礎知識~保釈の条件、保釈金の決定など】
3ページ目 【「公判前整理手続」についての基礎知識~裁判は本当に迅速化されるか】

【保釈についての基礎知識~保釈の条件、保釈金の決定など】

保釈とは?

保釈
保釈はあくまで勾留する理由が薄くなった被告人に対する措置であり、被告人への勾留状態は継続している。そのため被告人の権利はいろいろと制約される
先のページでご説明したように、被告人に重大事件や常習犯ではなく、被告人が証拠隠滅をする可能性がなくなったり、また被告人の住所が何からの手段で定まった場合には、勾留を取り消さなければなりません。

ただ、それが100%立証できなくても、そういう条件が上がってきた場合には、裁判所は被告人の勾留を外見上解除することができます。これが保釈です。

保釈には、保釈保証金が必要です。これは、現金でなくても小切手などの有価証券で構いません。被告人が逃亡など保釈条件を破った場合には、保証金は没収されます。裁判の出頭期日に意味もなく出頭しないときも、保証金没収の対象になることがあります。

保釈保証金は、被告人への心理的プレッシャーを与えるのが目的ですから、被告人に応じて、裁判官が決定します。前ページでもお話しましたが、起訴後、身柄を決定するのは基本的に検察官から裁判官に移るので、裁判官に決定権があります。

過去には「20億円の保証金」というのもあったようです。

また注意しなくてはならないのが、保釈は「勾留の停止ではない」ということです。外見上は解除されているように見えますが、勾留は法的には続いています。住所も指定されますし、場合によっては(多くの場合のようですが)旅行などの制限も受けます。

没収されなかった場合、保証金は返ってくる?

保釈保証金
逃亡などをしない「担保」が保証金なので、個人にどれだけ違反しないプレッシャーをかけられるかが決定のポイント。20億円保証金を支払った被告人もいる
担保的なものですから、当然返ってきます。このような場合に返還されます。

(1)勾留の取消が決定したとき(保釈は法的にはまだ勾留状態)
(2)保釈が取り消されたとき

基本的に裁判が終われば、勾留はなくなり、無罪で釈放(勾留取消)か、刑務所などへの収監となりますから、主に(1)の理由で保証金が返還されることになります。

保釈は誰が請求できる?

被告人自らがすることができます。

また、被告人の弁護人、法定代理人、保佐人(家庭裁判所で決定)と、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹は、被告人の保釈の請求権を持っています。請求に却下する内容がなければ、裁判所は保釈をしなければなりません。

また、被告人の勾留は裁判官が行っているものですから、裁判官が職権で保釈を認めることができます。また、不当に長いと思われる場合は裁判官は保釈を認めなければなりません。

ただし「不当」の範囲は、ケース・バイ・ケースです。

保釈の決定に検察官は関れない?

そんなことはなく、刑事訴訟法では保釈決定をするときに検察官への意見聴取を義務づけています(第92条)。

しかし、あくまでそれは拘束力のない意見なので、裁判官はそれを聞いた上で決定を下すことができます。検察は、それに対し抗告をすることができます。

保釈と勾留停止は違う?

勾留停止とは、住居の制限を行って親族や保護団体などに身柄を「委託」するため、釈放することです。保釈保証金が必要ない点が保釈とは異なります。

被告人が病気だったり、被告人の親族の葬祭などがあった場合、例外的に裁判官が認めることがあります。自由に出歩けるものではありません。

ちなみに、勾留されている被告人の権利は?

まず、弁護人の選定権です。ただし、これは被疑者の段階(つまり起訴前)に与えられ、接見(会うこと)ができます。

被告人になると、弁護人以外の人と会うこともできます。また、差し入れを受け取ることもできます。ただし、裁判官は、自分の職権、または検察官の請求により、弁護人以外との接見を禁じ、差し入れ品を検閲、場合によっては没収することができます(ただし食品はのぞく)。

たとえば起訴事実に対して全面否認をしているような被告人は、検察官の請求によって弁護人以外との接見を認められないケースが多いようです。口裏合わせや証拠品を捨てる指示など、証拠隠滅のおそれがあるためといわれています。

また、被告人は自分の勾留理由を開示するよう裁判官に請求できます。公開の法廷で行われ、理由は必ず告げられなくてはなりません。

全面否認でも「保釈」、これはなぜ?

刑事裁判はふつう、第1回目の公判における下記の冒頭手続から始まります。

(1)人定質問(確かに被告人本人かなどを確認)
(2)検察官による起訴状の朗読
(3)裁判官による被告人の権利の通知
(4)弁護人・被告人の陳述

このあと、証拠調べが始まります。

しかし、2002年の刑事訴訟法改正によって、第1回目の公判前に「公判前整理手続」が導入され(実施は2005年~)、証拠調べを公判前に行うことも可能になりました。

これが終了したことは、隠滅できる証拠はもう存在しないことを意味しますから、全面否認している被告人であっても逃亡の恐れがなければ保釈請求に応じることができることになります。

次ページではこの新しい制度「公判前整理手続」についてみていきましょう。
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