本社風景「空きのペットボトルをパーテーションとして使っている」
しかし、手持ちの数千円もすぐなくなろうとしていた。ホームレスとはいえ、最低限食べてゆくための生活費が必要だ。そんなとき例の起業家からホームページ作成の仕事を紹介された。ウェブデザインはまったくの未経験だったが、仕事を選んでいられる状況ではない。その場は引き受けることにして、作り方は引き受けた後で、知り合いに聞いて何とか間に合わせた。


掲示板で叩かれる


それでも分からないことは、インターネットの掲示板で質問。ところが、掲示板に寄せられたのは、「もっときちんと質問しろ!」「過去のレスを読め!」という冷たい回答ばかり。「それが分からないから質問しているのに」と言いたかったが、掲示板にはコミュニティー特有の雰囲気があり、新参者がおいそれと気軽に質問できる場ではない。「初心者でも気軽に質問できるコミュニティーがあれば―――」。そういう兼元さんの思いがのちに「OKWave」を立ち上げる動機となる。しかしその実現までは、数年という時間を要した。

ただウェブだろうと製品であろうと、コツさえつかめばデザインの基本は同じである。HTMLなど基本的な技術を覚え、見事なウェブデザインを納品すると、口コミだけで仕事が増えるようになった。公園の野外コンセントから電源を引き、夜中ベンチに座って孤独な作業を続け、しばらくすると月30万円ぐらい稼げるようになった。

そのお金でアパートを借りて、ホームレス生活を脱出することもできた。しかし兼元さんは、給与の大半を自らのライフワークにつぎ込み、家庭に生活費を入れず苦しめた妻のために、1万円だけをポケットに入れ1日400円で生活。残りのお金はすべて名古屋の妻のもとに送金した。居場所は知らせず、心配するなと手紙を書いた。