多くのキャリアの成功事例と企業人事の実態を知る人、と言えばヘッドハンターでしょう。毎日何人もの優秀な人材と会い、企業の人事戦略に深く関与しています。人材と人事を知り尽くした彼らに、キャリアプランニングのヒントを聞きました。
今回は第一線のヘッドハンター備海宏則さんから「ヘッドハンターの仕事」と「スキル向上の戦略」について教えていただきました。
ヘッドハンターは近くにいる!
備海宏則(びかい・ひろのり)さん 72年茨城県生まれ。96年慶大商卒。大手人材バンクで若手ハイスペック層の人材紹介に従事。ヘッドハンティング会社サイト・フライトの設立に参画。若手実力派ヘッドハンター。2005年、ヘッドハンティング会社キャリアエピソード設立、代表取締役就任。 |
備海:たまにテレビにヘッドハンターが登場すると、“産業スパイ”のように扱われていますが(笑)、実際は企業の経営課題を「ヒト」の側面から解決するコンサルタントなんです。
最近の好例として、日産自動車はカルロス・ゴーン氏をトップに招き、業績をV字回復させました。ちなみに、ゴーン氏を前職のタイヤメーカーからルノーへ転職させたのはヘッドハンターです。
―――経営トップ、つまり“ヘッド”を紹介することですね。
ヘッドハンティングと人材バンクの違い |
備海:確かにそれがメインですが、徐々に経営トップ以外にもヘッドハンティングの対象は広がっています。
人材紹介には2種類あり、我々のように企業から依頼を受けてから、人材の選定・検索を行う「サーチ型」と呼ばれるヘッドハンティング会社と、常に求人と転職者の登録を蓄積してマッチングする「バンク型」の人材バンクがあります。
今までは「サーチ型」が経営トップ、「バンク型」が一般の社員、とすみ分けされていたのですが、その境界線が年々低くなってきているのです。
ヘッドハンティング業界の変化
―――といいますと?備海:ヘッドハンターは企業の「経営課題」を仕事の出発点にしています。経営トップの人選が課題のときもあれば、特殊な技術やスキルを持った人材を必要とする局面もあるのです。
そのときは、技術を保有していれば20代半ばの若い人材もヘッドハンティングの対象になります。また企業から「若手を採用して企業を活性化させたい」といった要望をいただくこともあります。若手となると人材バンクの登録者と重複することもあります。
―――私もヘッドハンティングされる可能性がある?
備海:企業ニーズがあればありますよ(笑)
―――通常どのような人材がヘッドハンティングの対象になるのでしょうか?
備海:企業が置かれた状況に応じてさまざまですが、企業のライフサイクル(図参照)のステージごとに必要とされる「スキル」を提供できる人に対する根強いニーズがあります。
企業はステージごとに課題を持っている。導入期には営業・販売、発展段階には人材確保など |
例えば、人事のポジションでも企業の発展段階では「採用」のスキルが求められますが、成熟期には企業の活性化などの「人事企画」や「制度設計」などのスキルが求められます。すべての領域をカバーできませんから、自分の得意野では他の誰にも負けないことが大切ですね。
―――では30歳前後の人が「スキル」を高める方法を教えてください。
備海:私は「ABC」という、3つのスキル戦略を提案しています。
スキル戦略「ABC」
戦略A. Attack(攻撃) スキルの強化・拡大戦略B. Blend(混合) スキルの複合化
戦略C. Concentrate(集中) スキルの集中化
戦略A. Attack(攻撃)
また30歳前後であれば、コアとなるキャリアがあったとしても、十分ではないケースがあります。その場合、同じ部門の別の仕事にチャレンジして、幅を広げるのも有効です。例えば、営業をコアキャリアとしてきた人が、広告宣伝やマーケティングの仕事も担当して、将来営業企画などができるよう準備するなどです。
戦略B. Blend(混合)
ただ、その組み合わせに企業ニーズがなければ、「単にキャリアが薄まっただけ」になりかねないのでご注意ください。
戦略C. Concentrate(集中)
大きく3つに分けましたが、ほとんどのスキルアップの方向性は説明できると思います。それぞれ現時点でのスキルレベルに合わせて、方向性を選択して実践してください。
―――ありがとうございました。
次回は再び備海さんにご登場いただき「35歳でヘッドハンティングされる人」をテーマに、30歳からのキャリアプランの立て方についてアドバイスいただく予定です。