敵を恐れるな!
▲半蔵門、松井証券社長室より 旧態然とした企業が集る大手町・丸の内方面を背景に |
しかも、改革に着手したのは、ネットブームが始まるかなり前。「ネット証券」という方向性が、定まっていた訳ではなかった。松井氏は、支店の開設、コールセンターの設置、新聞広告など、あらゆる手法にチャレンジする。
「模索する中から、電話を使った通信営業に手ごたえを感じました。そこで支店を全て閉鎖して、営業員を全員コールセンターに異動しました。すると『俺にオペレーターをやらせるのか!』と言って、彼らはお客様を連れて辞めていってしまいました」(「日経Biz Financial Career Strategy」より引用)
味方であるべき社員が、最大の抵抗勢力になる。そのストレスは尋常ではないだろう。しかし、松井氏はそれにひるまなかった。現状のままでは生き残れないと決断した以上、ここで引く訳にはいかない。自分を信じ、最後まで意志を貫く。
引き算の決断
その後、バブル崩壊に苦しむ証券業界の中で、松井証券は、電話取引で順調な成果を上げ、独自の方向性を見出していた。ところが90年代中盤、アメリカではインターネット取引が徐々に広がってゆく。松井氏は、再び決断を迫られる。「ネット取引にシフトするか? コールセンターが手堅いか?」
当時の日本の通信環境は低速回線が主流、ネット取引はまだ先、という読みが大勢を占めていた。松井証券もちょうど、電話取引に活路を見出し、コールセンターの大増設を意思決定したばかり。社内にも「電話取引で十分」という雰囲気があった。
しかし松井氏は、ネットの波は予想を上回るスピードで日本に伝播する、コストが掛かる「コールセンターは廃止し、ネット取引に一気に移行する」とコールセンター増設を白紙撤回する。
再び社内は大混乱に陥る。一度はコールセンター拡大に動き、準備も進めていた。それが白紙撤回となっては、担当者たちの立つ瀬はない。リーダー格の常務とオペレーターたちが会社を去る。一度は自分が命じたことだけに、苦渋の判断だったに違いない。
「それは仕方がないのです。正しい決断は“引き算”の決断、つまり『過去を捨てる決断』です。過去を捨てるということは、今まで苦労して蓄積したものを捨ててしまうことを意味します。
その痛みは容易に計算できますが、逆に得られる新しい未来は計算できません。今までを否定することになるのですからみんな理解できず、反対するだけです。
一方、間違った決断は“足し算”の決断、つまり『過去を残す決断』です。まったくリスクはありませんが、何も得るものはありません」(「日経Biz Financial Career Strategy」より引用)
松井証券は、個人投資家の取引高、従業員一人あたりの利益で、証券業界のガリバー野村証券を凌駕した。ネット証券No.1松井証券があるのは、松井社長が悩み抜いて下した「過去を捨てる決断」があったからだ。
「過去を捨てる決断」の多くは、過去の栄光を支えた功労者の目前で行なわれる。あなたは、過去は過去と割り切り、軋轢を呼ぶ決定を貫き通せるだろうか?
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