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緩やかな階段の寸法とは?安全な階段づくりのポイントを解説

緩やかな階段の寸法を把握していれば、住まいの中で起こる「階段」での事故が未然に防げるかもしれません。今回は、緩やかな階段づくりのための具体的な方法を、その他の種類の階段と比べながら解説していきます。階段に工夫を加え、安全な住まいづくりをしましょう。

井上 恵子

執筆者:井上 恵子

住まいの性能・安全ガイド

緩やかな階段の寸法を知って、安全な階段づくりを!

安全な階段の条件を整理してみましょう(画像提供:LIXIL)

安全な階段の条件を整理してみましょう(画像提供:LIXIL)

住まいの中で事故が起こりやすい場所は、キッチン、階段、風呂場、ベランダです。この中でも階段は、滑って転ぶ、落下するなど、特に足元がしっかりしない幼児やお年寄りにとっての危険地帯。この危険をなるべく避けるためには、手すりや階段の仕上げなどにくふうが必要です。

今回は、この階段周りに着目して、安全な階段とはどんなものか、どのようなくふうができるのか解説します。
 
 

緩やかな階段の寸法に欠かせない「階段の幅の種類」

階段の幅・踏み面・蹴上げ
階段の幅・蹴上げ・踏み面とは図の中の矢印で示した部分を指します。最低寸法が決められています。
まず最初に階段の豆知識から。階段は安全性などを考慮し、建築基準法によって建物の用途や規模により、その幅、踏み面、蹴上げの寸法が決められています(幅、踏み面、蹴上げは右の写真を参照)。

A:階段幅とは「階段の横幅」のことで、広ければ広いほど多くの人がすれ違いができるため、公共の建物など大勢で使う階段の幅は広く設定します。一般的な家庭では最低75センチから可能です。

B:踏み面とは「階段の上面(足で踏む板)の奥行寸法」で、この寸法が大きい方が足をのせた時に安定しますが、奥行きがありすぎるとそれだけ大股で上り下りすることになります。

C:蹴上げとは「階段の1段の高さ寸法」で、高すぎると上り下りがきつくなりますが低すぎてもつかいにくい階段になります。

一般的な住宅の階段の規定は「幅75cm以上、蹴上げ23cm以下、踏み面15cm以上」とかなり急な勾配でもOKとなっています。一方、一番規制が厳しいのが小学校の児童用の階段で「幅1.4m以上、蹴上げ16cm以下、踏み面26cm以上」と、だいぶ緩やかな階段となります。
 

緩やかな階段づくりには必須!「手すりの設置」

手すりの設置については、不特定多数の人が使う階段で高さ1m以上の階段には手すりを設けることとなっていますが、反対に使う人が限定された戸建て住宅やマンションのメゾネットなどの階段には、とくに手すりを設けなくてもいいことになっています。このようなことから、結果として危険な階段になっていることがあるので注意が必要です。特に高齢者や小さいお子さんのいるご家庭では、階段の計画に安全性が確保されているかという視点をお忘れなく。
 

階段の種類と安全性の違い

ここからは住まいの中にある階段について述べていきます。階段には次のような種類があります(【図1】参照)。
 
階段の種類
【図1】階段の種類。踊り場とは、階段と階段の間にある平らな部分。ここにも段を設けると階段自体の面積は小さくてすむが、危険。


この中で危険とされるのが、3)回り階段、4)螺旋(らせん)階段、6)曲がり階段です。危険とされる大きな理由は「踊り場にも段差があること」。上記のいずれの階段もそのような形態になっています。
 

緩やかな階段の寸法を知る「踊り場(おどりば)の役割」

踊り場とは、階段の途中でたいらになっている部分を指します。階段の途中で休憩したり、方向転換をするスペースであると同時に、足を滑らせて落ちた場合に勢いを和らげる役割も持ちます。もし踊り場にも段があれば、勢いが止まらず一度踏み外したら下まで落ちてしまう可能性があります。踊り場をきちんと確保してある階段の方が安全なのです。

安全な順番に階段形式を並べてみました【図2】。階段を計画するときの参考にしてください。
【図2】安全な階段形式を確認してください。

【図2】安全な階段形式を確認してください(クリックで拡大)。

 

危険な階段はどれ?安全対策と工夫

もしご自宅が上記の危険な階段に該当する場合は、手すりを設置する、踏み面を滑りにくくするといった対策を取っておいたほうがよいでしょう。

螺旋(らせん)階段については安全性では疑問が残るものの、デザイン性があり、ぜひ取り入れたいという要望もあると思います。螺旋階段を取り入れるときには、踏み面の狭いほうの端から30cmの位置で、規定以上の踏み面幅を取るように気をつけましょう。また、家具の搬入に支障がないか事前確認を忘れずに。
 

緩やかな階段の寸法と合わせたい「手すりの設置位置」

手すりをつける高さは一般的に次のような高さが良いとされています(【図3】参照)。
 

手摺の寸法
【図3】手すりの高さ。このように2段でつければ大人も子どもも使えます。


しかし、手すりを使用する人が限定される場合には、手すりはこの寸法にこだわることなく、使用する人にあわせた高さにすることが大事です。【図3】のように、大人用、子ども用と上下2段につける方法もあります。高齢者と子どもが一緒に住んでいる場合はこの形態が良いですね。
 

手すりを設置するときの注意点

手摺の始まりと終わりは袖口が引っかかりやすく危険なので、壁側に折り曲がったエンドキャップをつけましょう。

手すりの端部は袖口が引っかかりやすく危険なので、壁側に折り曲がったエンドキャップをつけましょう。

手すりには力がかかるため、プラスターボードなどの壁の仕上材に直接つけると取れてしまう可能性があります。最初から手すりが取り付けられない場合は、必要に応じて後付けできるように、壁の中にあらかじめ取付用の下地を入れておくとよいでしょう。

もし下地の入っていない階段でも、リフォーム用の階段手すりとして手すり下地と手すりがセットになったものも出ています。そのようなものを使えば簡単に手すりを後付けすることができます。

また、手すりの始まりと終わりは袖口などを引っ掛けやすく危険なので、エンドキャップは下向きまたは壁に向かって折り曲がったものを選びましょう。

 

緩やかな階段の寸法と合わせたい「滑らない対策」

次に階段の踏み面を滑りにくくするくふうです。踏み面の先端だけにノンスリップのミゾやタイルが張ってある階段を多く見かけますが、下の写真のように踏み面全面に溝を掘って滑りにくくする方法もあります。


 

踏み面全面にミゾをつけた例
踏み面全面にミゾを掘り込んだ例。人が歩く範囲だけでもこうしておくと滑りどめになる。


その他に、簡単に後からできる方法として、踏み面に薄手のカーペットを張りつける法があります。それだけでもだいぶ滑りにくくなります。

 

緩やかな階段の寸法と合わせたい「段差が見分けやすくなる工夫」

照明が暗かったり視力が衰えていたりして、段差のある部分がはっきりわからないとつまづいたり踏み外したりと事故につながる恐れがあります。階段の照明の明るさが十分確保できているかを確認し、不十分な場合は電球を取り換えたり足元を照らすフットライトを設けると良いでしょう。階段に限らず、段差のあるところは同じようなくふうをすると良いですね。例) 玄関の上がりかまち、洋室と和室の境目、室内とバルコニーの段差など。
 

安全性のチェックを忘れずに

繰り返しになりますが、一般的な住宅の階段の規定は緩く、かなり急な階段でも作ることができるのが現状です。また、手すり設置の義務もありません。デザイン性やスペースの関係でしょうか、残念ながら今でも危険な階段を見かけます。

安全であるべき家庭内での事故を防ぐために、これから家を建てる方はぜひ、安全性に配慮した階段になっているかチェックするようにしてください。

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