ある人から「不動産の個人間売買市場はできるのか」という質問を受けましたので、今回は少し話題を変え不動産取引の問題について考えてみることにしましょう。
なお、不動産業者が仲介をしたうえで「売主と買主がいずれも個人」の場合を「個人間売買」と表現することもありますが、ここでは不動産業者が最後までまったく関わらずに「売主と買主の個人同士だけ」で取引するケースを想定しています。
これまでも親子や親族、あるいは親しい知人などとの間で、手持ちの不動産を売買するケースは少なからずみられます。形式的に「売買をした」ということにして所有権を移転することもあるでしょう。
その一方で、インターネットの普及につれて個人間での物品売買などが盛んになり、それを不動産の取引にも拡大しようとする動きも出てきています。
その根底には、媒介手数料の負担が大きすぎるという事情もあるようです。
たとえば、中古マンションを5,000万円で売買するとき、売主、買主とも、それぞれ媒介業者に156万円(別途消費税)を上限額とした媒介手数料を支払わなければならず、その合計は312万円にのぼります。
この媒介手数料が個人間売買によって不要になれば、双方にメリットは大きいでしょう。
しかし、数千円や数万円の品物を売買するのとは違い、不動産売買のリスクはかなり大きなものになることを考えなければなりません。
不動産に関連する法律はいくつもあり、物件によっては10種類以上の法律が該当する場合もありますが、当事者同士だけで取引しようとすれば、少なくとも買主はこれらの内容を理解しておくことが必要です。
さらに、実際の不動産取引では法律以外にもチェックしなければならないことが数多くあり、トラブルが起きないように一つひとつ的確に対処することはなかなか難しいものです。
また、「契約の成立」をめぐる法律もやっかいです。不動産業者が介在せず、まったくの個人同士による取引の場合は、民法の適用によりお互いの “口頭の意思表示” だけで売買契約が成立することになります。事前に合意していなければ、ローン特約などもありません。
まず初めに「民法の適用を排除する」ことを合意しておかなければ、いきなり大きなトラブルになりかねないのです。
住宅ローンの融資に関する問題もあります。多くの金融機関では、不動産業者による専門的な立場での調査に基づいた調査書(重要事項説明書)や売買契約書、その他の書類が揃ったうえで申し込みを受け付けることが前提です。
それらが揃う見込みがないまま、個人のお客様が直接、金融機関の窓口へローンの申込みや相談に行っても、それに対してあれこれ指示をする体制は金融機関側になく、相手にされないこともあるでしょう。
将来的には「不動産業者が介在しない個人間売買市場」ができあがっていくことも十分に予想されますが、現状のままで市場だけができても、トラブルの続出が必至かもしれません。
公的機関によるリスク情報の開示、売買に関する第三者的なサポート、建物検査サービス、土地調査サービスなどの体制が整備されたうえで、「いつ誰に何を頼めばよいのか」という情報が消費者に認知されるようになれば、「個人間売買市場」が拡がっていくことも考えられます。
もちろん、そのためには金融機関が「不動産業者が関わらない取引」を積極的に認めることも欠かせません。
現状でもローンなどを使わない「現金買い」であり、買主がすべてのリスクを受け入れるのであれば、「個人間売買」は可能ですが……。
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