不動産売買の法律・制度/不動産売買の手続き

売買契約書のポイント(契約書を作成することの意味)

難解な契約条項が書き連ねてある売買契約書ですが、その内容をよく理解しないままで署名・押印してしまう人も少なくないようです。そこで7回に分けて、主な契約条項の意味や確認ポイントなどを説明していくことにしましょう。(2017年改訂版、初出:2004年4月)

執筆者:平野 雅之

【ガイドの不動産売買基礎講座 No.96】

民法によれば、売買契約は当事者の意思の合意のみで有効に成立します。これは不動産の売買契約も例外ではなく、お互いの口頭による意思表示の合致だけで十分です。つまり、民法上では売買契約書を作成する必要はなく、当然ながら売買契約書の様式も決まっていません。

書類と印鑑

売買契約書を作成することは不動産取引に欠かせない

様式が決まっていないのですから、極端にいえば物件を特定したうえで「これを○○円で買うよ。お金を払ったら物件を渡してね。何かあったら後で話し合いましょう」だって立派な契約書です。

「立派」というと語弊があるかもしれませんが……。

しかし、現実にそのような売買契約書はありません。たいていは難しい文言がずらずらと書き連ねてあり、何が書いてあるのか、どんな意味があるのか、あまり理解できないままで署名・押印をしてしまう人もいるようです。

そこでこれから7回に分けて、主な契約条項の意味や注意点など、確認すべきポイントを説明していくことにしましょう。


売買契約書を作成する目的と効果

個人同士の売買であれば売買契約書を作成しないケースがあるかもしれませんが、不動産業者媒介または当事者として関与する売買では、ほぼ例外なく売買契約書が作成されます。

また、たとえ不動産業者が関与しない個人間売買であっても、金融機関から融資を受けようとすれば、専門家などが作成した売買契約書の提示を求められることが多いでしょう。

売買契約書を作成する主な目的としては
1.後日の証拠として残すこと
2.お互いの合意内容を確認すること
3.民法の適用を除外すること
などが挙げられます。

3.について少し補足すると、不動産の売買にかぎらず、取引において当事者間で特段の取り決めがないとき、特別法がある場合を除き原則として民法が適用されます。

しかし、大部分が明治29年に制定されたままの民法では、複雑化した現代に合わなかったり、世間一般の認識とかけ離れてしまっていたりする部分も少なくありません。そのような部分について、売買契約書で取り決めをすることにより「民法の適用を除外」できるわけです。


宅地建物取引業法における売買契約書の位置付け

ところが、意外なことに宅地建物取引業法のなかには売買契約書そのものについての規定がありません。

その一方で、業法の第37条に「書面の交付義務」が定められ、契約内容のうち一定の事項を記載した書面を売主と買主(不動産業者が自らが売買の当事者であればその相手方)に交付しなければならないことになっています。これがいわゆる「37条書面」です。

そして、業法の第37条に規定された一定の事項を記載し、要件を満たす売買契約書であれば、その契約書をもって37条書面に代えることができるものとされています。

実際のところは売買契約書のみを作成することがほとんどであり、37条書面を別途に作成することはまずありません。

また、トラブルの防止を念頭に置きながら、お互いの合意事項を書面化していくのが、売買契約書作成の本来あるべきスタイルです。

しかし、現実には不動産業者のペースで事前の話し合いもないまま、すでにできあがっている売買契約書に売主・買主が当てはめさせられるケースも多いでしょう。

いずれにしても、売買契約書に記載された各条項について、その意味を知っているのと知らないのとでは大違いです。次回からは、一般的な契約条項を例示しながら、各条項の意味や確認ポイントなどを説明していくことにします。


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