チベットの聖地ラサとポタラ宮歴史地区
観世音菩薩の化身、ダライ・ラマが暮らすポタラ宮。ただし、ダライ・ラマ14世は現在インドのダラムサラで、亡命政府となったガンデンポタンを率いている ©牧哲雄
ラサ(拉薩):標高3,650mに位置するチベットの政治・宗教の中心地。中国チベット自治区の区都。
世界遺産にはすでに消滅した文化の遺跡や、すでに廃れてしまった宗教のモニュメントが多数存在するが、ラサは違う。ラサの世界遺産は「ラサのポタラ宮歴史地区」として3つの建築物(ポタラ宮、ノルブリンカ、ジョカン)が登録されているが、チベット人にとって、ポタラ宮は神の住まう聖家であり、ノルブリンカは神の離宮であり、ジョカンは生涯に一度は巡礼を夢見る聖なる巡礼地だ。
今回はこの生ける聖地ラサを紹介しよう。
チベット仏教の巡礼地ジョカン(大昭寺)
聖山カイラスと並ぶチベット仏教最高の巡礼地、ジョカン。山をいくつも乗り越えてこの地を訪れる巡礼者も数多い
ジョカン正門前。五体投地は、まず手を合わせて合掌し、手を頭上、眉間、喉、胸にもっていき、しゃがんで膝をついたあと、うつ伏せに寝転んで頭上で合掌する ©牧哲雄
本堂に入るとチベット人の行列ができている。行列に並ぶ。ジョカンの中はサンとは異なる少し獣くさい香りが立ち込める。臭いの原因はヤクと呼ばれるウシ科の動物から作られたバター・ロウソクだ。人々は燭台にバター・ロウソクをさすか、バターをビニール袋いっぱいに入れ、手に持って並んでいる。
ジョカンの回廊。後ろに並んでいるのがマニ車で、中には経文が入っていて、回転させることで経文を読んだことになるらしい。後ろのおばあさんが持っているのもマニ車
日本のお寺のように仏像を柵で囲うようなこともしていないので、手が届くほどに近づいて仏像を見上げる。仏像は金色に輝いて、顔には化粧さえほどこされている。仏像の前にはバターを溶かした盆が置いてあり、人々は手にもっていたロウやバターを入れて、祈りを捧げる。
こうしてここで祈りを捧げるために、6,000m級の山々を数十日もかけて歩いてくる者や、五体投地を繰り返しながら歩を進める者さえいるという。それだけに、強烈な緊張感がジョカンには張り詰めている。ジョカンはサウジアラビアのカーヴァ神殿やイスラエルの嘆きの壁に匹敵する、世界でも稀に見る本物の聖地なのだ。