世界遺産/ヨーロッパの世界遺産

おとぎの国の世界遺産チェスキー・クルムロフ/チェコ

ボヘミアの深い緑に包まれたパステルカラーの街並みはまさに「おとぎの国」。中世の雰囲気を伝えるかわいらしい街並みは、その美しさから「眠れる森の美女」と評されたという。今回は中欧でもっとも美しいと言われる古都のひとつ、世界遺産「チェスキー・クルムロフ歴史地区」の観光情報から歴史・文化まで、その見所を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

世界遺産「チェスキー・クルムロフ歴史地区」

チェスキー・クルムロフ城

ヨーロッパでもっとも美しいといわれる街のひとつ、チェスキー・クルムロフ旧市街。右上に見えるのがチェスキー・クルムロフ城

ヨーロッパの古都で君がまず訪れなければならない街がふたつある――。スロベニアからきた旅人はそういった。「ひとつがクロアチアのドブロヴニク、もうひとつがチェコのチェスキー・クルムロフだ」。私も賛成しよう。

チェスキー・クルムロフはボヘミアの深い森に守られて、中世から姿を変えることなくいまに伝わった。その街並みはまるで花束。ボヘミアの深緑の中、ブルタヴァ川は「Ω」型に輝いて、屋根のオレンジ、壁の白、ピンク、黄、青が咲いている。人々はあまりの美しさに、この街を「眠れる森の美女」と呼んだという。今回はそんなチェコの世界遺産「チェスキー・クルムロフ歴史地区」を紹介する。

森との戦い

チェスキー・クルムロフ城から見た旧市街

チェスキー・クルムロフ城から見た旧市街。中央上に見えるのが聖ヴィート教会。チェスキー・クルムロフ城は、チェコではプラハ城に次ぐ大きさを誇る

太古の昔、人は森や川や大地や海とともに暮らし、そのめぐみに感謝し、万物に力を認め、その力を信仰し、畏敬して暮らしてきた。森が恐怖の対象になるのはキリスト教が浸透して以降のことだ。

キリスト教は信仰を広めるなかで、多神教の神々や妖精たちを悪魔として追放しようとした。『グリム童話』、たとえば「ヘンゼルとグレーテル」や「赤ずきん」に見られるように、森は魑魅魍魎が住み着く暗黒の世界に姿を変えた。鉄器によって農業や林業技術が飛躍的に上昇した11世紀以降、大開墾時代がはじまった。
ブルタヴァ川とチェスキー・クルムロフ城

ブルタヴァ川とチェスキー・クルムロフ城。ブルタヴァ川はドイツ語でモルダウ川

たとえばイングランドでは森の9割が消え去ったといわれているが、それは森に対する戦いであり、人間の自然に対する挑戦だった。 
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