妖精の国ができるまで

ゼルヴェからさらに4kmほど歩いたローズバレー。夕暮れどきはバラ色の奇岩群を見ることができる ©牧哲雄

ゼルヴェからさらに4kmほど歩いたローズバレー。夕暮れどきはバラ色の奇岩群を見ることができる ©牧哲雄

ギョレメの奇岩 ©牧哲雄

ギョレメの奇岩 ©牧哲雄

なんでこんなへんてこな奇岩ができたのだろうか。

世界中の奇岩の多くは、柔らかい地層が風雨によって削られて、固い地層が残ることによって造られる。カッパドキアも同様で、6,000万年前の火山によってできた柔らかい凝灰岩の層の上に、固い地層が堆積した。それから万単位の年月を経て風雨によって下の層が削られて、固い岩が帽子のように乗っかることになる。

だからいまこの瞬間も奇岩は成長しているし、また崩壊しつつある。地球は生命のように鼓動し、躍動している。

 

カッパドキアと地下都市

山をくり抜いて造ったウチヒサールの城塞。のちにはその穴を利用して鳩を飼い、鳩の糞を畑にまいてブドウを育てていた

山をくり抜いて造ったウチヒサールの城塞。のちにはその穴を利用して鳩を飼い、鳩の糞を畑にまいてブドウを育てていた

デリンクユ。地下7層、90mまでアリの巣のように展開する地下都市。写真の円盤を蓋にして敵の侵入を防いだ ©牧哲雄

デリンクユ。地下7層、90mまでアリの巣のように展開する地下都市。写真の円盤を蓋にして敵の侵入を防いだ ©牧哲雄

紀元前2,000年前後のヒッタイトの時代には、すでに交易の要衝としてカッパドキアが成立していた。キリスト教との関係は深く、聖書にはパウロがこの地を訪れたという記録もあり、キリスト教の有力な教父が現れてこの地にキリスト教を広めている。

4世紀前後から、ローマ帝国によって迫害を受けたキリスト教徒がこの地に集まりだした。やがてローマ帝国はキリスト教を国教化するが、つづいてイスラム勢力がこの地を治めると、キリスト教徒はふたたびこの地に集まるようになる。ギョレメの地名は「見てはならぬ」の意味。キリスト教徒にとっては「見られてはならぬ」。外から見られないように、岩窟に教会を作り、地下都市を築いた。

 

キリセ(教会)内部のフレスコ画。6~13世紀の様々な画風画を見ることができる ©牧哲雄

キリセ(教会)内部のフレスコ画。6~13世紀の様々な画風画を見ることができる ©牧哲雄

いまだ全部でいくつあるのかわかっていない数多くの地下都市があり、最大のものは21層で地下100メートルをゆうに超え、4万人が暮らしていたという。地下都市でもっとも有名なのがカイマクルとデリンクユだ。中はまさに蟻の巣で、住居をはじめ修道院、教会、ワインセラーなどから、墓地や通風孔、さらには敵の侵入を防ぐための円盤まで用意されている。

カッパドキアを作っているのは億単位の地球の活動と、正しく生きたいと願った人間の情熱だ。妖精になること。それは、この世界が目的や意味に満たされた予定調和な世界であるというのではなく、岩の力、雨の力、動植物の力、時間の力、人の思いの力、そうした「神秘に気づく」ということなのである。その普遍的価値が認められ、「ギョレメ国立公園とカッパドキアの岩窟群」は世界で35件しかない複合遺産として世界遺産に登録されている。