日本酒/酒造、酒蔵訪問

山廃造りに命をかける、福井の蔵「福千歳」

福井では珍しい山廃蔵の「福千歳」を訪ねた。なぜ、山廃なのか・・・をうかがってきた。あらためて山廃の魅力、再発見の機会になった。

友田 晶子

執筆者:友田 晶子

日本酒・焼酎ガイド

最近まで「山廃もと造り」しか知らなかったんです!

福井のお酒としては珍しい「山廃もと造り」を主軸に酒造りを行う蔵、「福千歳(田嶋酒造)」を訪ねた。お酒造りの季節を過ぎていたけれど、驚くべき興味深いお話をうかがえた。

初代田嶋徳次郎氏。体の大きな人だったとか。
まずは歴史。創業は1849年の江戸末期。
当時は、福井県丹生(にゅう)郡志津村大森(現在の清水町)に蔵があり、初代田嶋徳次郎氏は「加茂の井」という銘柄を造っていた。

「当時は神社に納めるお神酒蔵だったんです。大森から四斗樽を船に乗せ、足羽川を九十九橋の船着場まで運ぶ光景を、今でもうっすら覚えています。」と笑顔で説明してくださるのが、現3代目当主田嶋徳彦氏。昭和32年お生まれだ。

この現当主よりちょっぴり年下で、同じく福井育ちの私には、福井市のまんなかを流れる足羽川(あすわがわ)や風情のある九十九橋(つくもばし)は、とてもとても懐かしい場所でもあります♪

前列真ん中の男性が2代目田嶋徳榮氏。なんとも懐かしい雰囲気のある写真だ。
昭和28年、福井市内の現所在地である桃園町に「いい水がある」との情報を得て移転。
いい水の理由は、福井を代表する笏谷(しゃくだに)石(青みがかった柔らかい名石)にある。この地層を通る水はきわめて良質で、酒造りにはもってこいだったという。現在でも同じ場所の地下25メートルから沸く水を使用している。水質は軟水。


山廃、生もと、速醸・・・の違いとは?

閑静な住宅街にあるお蔵。遠くからも煙突が目を引く。和釜使用のお蔵の特徴だ。

現在、スタッフ2名、蔵に2名の4名体制で酒造りを行っている。杜氏の武藤(たけとう)氏は、石川の天狗舞、滋賀の道灌での経験を経て、今にいたる能登杜氏。 

この蔵のおもしろいところは、なんといっても現杜氏の師匠である久保勝次杜氏時代の話だ。

久保杜氏チームは、なんと、「速醸もと造り」の存在を知らず、ずっと昔ながらの手間ひまかかる「山廃もと造り」しか造ってこなかったというのだ。驚くことに、「山廃」が開発されて43年間、この福井のお蔵には情報が入ってこなかったというのだ。

扉を開けるとずらりと商品が並ぶ。ここでもお酒が買える。
うう、福井ってそんなに遅れているのぉ・・・。いやいや、もちろん、福井のほかのお蔵では当時の最新技術である「速醸もと造り」を取り入れていた。
福千歳、これもまた、運命というものですなぁ。


・・・と、ここで、「速醸もと造り」「山廃もと造り」とは何かを簡単に説明しておこう。

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この二つを説明するには、「生もと(きもと)造り」から説明しなければいけない。

酒造りに必要なのが「乳酸菌」。
発酵には不必要な雑菌などを殺してくれる有用な微生物だ。

昔はこの乳酸菌、蒸し米と麹と水を時間をかけすりつぶしながら(どろどろしてまるでヨーグルトのような状態になる)空気中から天然の菌を取り入れ、ゆっくり自然に発生・培養させていた。
このどろどろ状態のものを「酒母」といい、「すりつぶす」作業を「山卸(やまおろし)」と呼ぶ。

作業は一月に及び、大変な手間がかかる。
この山卸の作業を丹念におこなう方法が「生もと造り」で、いわば昔ながらの伝統的な造り方だ。

この「山卸」の作業部分をやや簡素化した方法が開発されたのが明治時代の後半。 山卸を廃止したので略して「山廃もと造り」と呼ばれたのだ。

また同時期に、人工培養の乳酸菌を利用し時間をかけずに乳酸菌を繁殖させた酒母を造る「速醸もと造り」も開発されている。
現在の酒造りは、手間が省けるこの製法が主流になっている。

「生もと造り」「山廃もと造り」は、酸が豊かで、コクと旨味とボディーがあり、お燗向きのお酒になる。
「速醸もと造り」は、軽やかですっきりした仕上がりになるようだ。

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