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蔵元さん自らが、おすすめ銘柄を注いでくれ、話をしてくれるうれしい催しゆえに、会場に詰めかけたお客さんなんと350名。
青森「田酒」、岩手「南部美人」、宮城「浦霞」、「日高見」、山形「出羽桜」、「十四代」、福島「末廣」、「飛露喜」、石川「天狗舞」、福井「黒龍」、愛知「醸し人九平次」…などなど、そうそうたる人気蔵ばかり。
■三代目の急死と阪神大震災
趣のある酒蔵入り口 |
そのなかで、聞いたことのない銘柄がひとつあった。
『蒼空(そうくう)』。伏見の藤岡酒造。
注いでくださるのは五代目 藤岡正章さん、34歳。彼にとってはこのお酒が初仕込みなのだとか。『蒼空』という名も当然新しい。
藤岡酒造は、明治35年に京都市東山区で創業。主要銘柄『万長』は今でも記憶されている方が多い地元密着の普通酒だった。
阪神大震災の後に建て替えられた |
ところが、三代目の急死により平成7年の造りを最後に酒造業を廃止。当時酒問屋に勤務していた彼は、きっと悩んだことだろう。このまま自分が酒造りを続けていくかどうか…。不運なことに、最後の造りの時に阪神大震災にも襲われている。
しかし、「自分の手で酒を造りたい」との思いを芽生えさせたのは、同業の蔵元さんたちだったという。
酒問屋を退社後、全国の蔵元で修行を重ね、温かい応援を背に、平成14年春、新しい酒蔵を建築し7年ぶりの酒造りを始めたのだった。
■2002年ものは2800本のみ!
木造りのカウンターと囲炉裏が素敵 |
初仕込みは28石。一升瓶で2800本。実際に使用するボトルは、家庭の冷蔵庫に入る大きさでもあり、二人で飲みきりサイズでもある500ml。これだと約1万本だ。
ちなみにワインボトルでいえば6700本。あのロマネコンティと同じくらいの生産量になる。
中身は、兵庫県産特等山田錦55%磨きで純米仕込み。
米洗いもタンク投入も火入れも、イタリア製のボトルへのビン詰めもコルク洗いも、藍染布に銀の箔押しという凝ったラベルの張りも、すべて手造りだ。
小造りのタンク。すべて手造り |
私の手元にあるのは『二〇〇二年度仕込四号』(5つあるタンクのうちの4つ目の意味)の生酒だが、今飲んでちょうど「ひやおろし」状態になっている。
淡い山吹色、みずみずしい梨のような香り、嫌味のない吟醸香、軟水仕込みからくるなめらかさと柔らかな旨味。まるで、温かい絹ごし豆腐を、上品な出汁でいただいたときのような、ほっこりやさしい舌触りが印象的。
藤岡さんのお人柄が伝わってくるようにも思えた。
■ミニエピソードでお人柄が…。
ディスプレーも目を引く |
ちなみに、郡山の大試飲会の三次会で、「友田さんの好きな銘柄は?」と聞く藤岡さんに、「そうですね~、今好きなのは、この前訪ねた青森弘前の三浦さんところの『豊盃』かなあ~」と答えると、「ウソッ、それ友達。ちょっと電話しちゃおう」と携帯でいきなり電話。
「いやあ、三浦君よろしくお願いしますね~」って、言われちゃったけど、藤岡さん、ご自分のところも頑張らないと~。他の酒蔵さんの紹介してる場合じゃないでしょう…、と思っちゃいましたね。
こんなエピソードからもわかるとおり、藤岡さんっていい人でしょう~。
柔らかな旨みの『蒼空』 |
さて、二〇〇三年度版のできたては、きっと、冬の冷たく引き締まった空気に映える蒼空(あおぞら)のように、きりりと爽快な味わいになるにちがいない。
「よい酒は必ずや天に通じ、人に通じる」という代々伝わる言葉を信じ、新たな挑戦に取り組む五代目を、日本酒ファンとして注目していきたいね。