それはひとえに、ローマ時代の都市形成の際に造られた地下洞窟のおかげなのだ。何千キロにわたる白亜質の洞窟は、年間を通して気温12度前後にたもたれ、適度な湿度があり、さらにお酒の熟成には不必要な光をシャットアウトするという、絶好の環境を提供してくれた。シャンパーニュ独特のなめらかさとたっぷりの余韻は、そこから生まれる。
■洞窟は最高の熟成庫だ
東力士『純米大吟醸 瓶囲』 |
実は日本にも、この洞窟を利用して清酒の熟成を行なっている蔵がある。
栃木は烏山の島崎酒造株式会社。
「東力士」の銘柄で知られた蔵だ。
洞窟は自然のものではなく、終戦末期に戦車を製造するための地下工場として整備されたものらしい。ここには十万本以上のお酒が眠っているのだとか。
熟成の理想条件をもつこの洞窟が与えてくれる日本酒へのメリットは、「割り水をした状態で熟成させることができること」。
日本酒の熟成は、腐敗を防ぐためどうしても高めのアルコール状態(=原酒)で熟成させなければならないのが現状なのだが、出荷時にあらたに水を加えると、せっかく熟成によって生まれた絶妙なバランスが崩れてしまうらしい。
この洞窟では、割り水をしてバランスを整えたまま熟成させることができるわけだ。
東力士『大吟醸 瓶囲』 |
そういえば、シャンパーニュも秘伝のブレンドをしてバランスを整えてから、洞窟で熟成させていたなと、あらためて思い出した。
「バランス」。
何をおいても美味しいといわれるお酒はすべてこの「バランス」がとれているものなのだ。
熟成銘柄が多い蔵ではあるが、必飲なのは『大吟醸 瓶囲』と『純米吟醸 瓶囲』。中身は平成十三年仕込みの山田錦。
■1升瓶6,000円の限定品だからお世話になった方へ贈りたい
東力士『純米大吟醸 瓶囲』と『大吟醸 瓶囲』 |
華やかな大吟醸と落ち着いた純米吟醸香。どちらも角が取れたまろみのある舌触りで、ほっくりとした味わい。熟成からくる旨味を十分に感じるが、古酒にありがちなシェリーのような風味はなく、不思議と新鮮さややわらかさもある。当家女将自身が「本当にバランスがよくて好き」と無邪気におっしゃるのがわかる気がした。
戦車製造という戦いのための洞窟を、楽しみや幸せを与えてくれる洞窟にしてくれた蔵に感謝しながら味わいたい。
お世話になった方への贈り物には、今まさにおすすめだ。