鼻腔をくすぐる優しい香りは
おばあさんとおかあさん仕込み
オーブンで焼き上げたチュニジアの卵焼き「タジン」。 |
どれもスパイスがほどよく効いた素直な味わいで、この店ならではの優しい香りが鼻腔をすりぬける。ひと口食べておいしいと感じるよりは、むしろひと口ごとに旨さが増す味わいとでもいえるかな。
わざわざチュニジアから取り寄せる特有の黒い種を練りこんだ自家製のパン。 |
あれは確か、2度目に訪れたときだっただろうか。「新しいメニューができたから食べてみますか?」と言われ、注文して食べてみると、塩味がとても強く感じられた。
わたしは普段、味はどうだったかと店の方に聞かれない限り、感想を言うことはないのだが(親しくなったら別だけれど)、この日はたまたま聞かれたので、「おいしいけれど、う~ん、少し塩味が強く感じられるかな・・・」と正直に答えた。
夢を抱いて単身で海を渡り、苦労して言葉を覚え、そしてやっとこさ構えた自分の店。いい店にしたいという気持ちはよくわかるから、そんな彼女の質問に、表面を取り繕うだけの言葉は要らない、失礼だと思い、わたしはそう答えたのだが、そのとき彼女は一瞬悲しい顔をしたのだ。
チュニジアで大人気の軽食「ブリック」。 |
その後もこの店には足を運んでいるのだが、彼女との会話は今まで通り、いや今まで以上にある程度の緊張感を保ちながら、楽しめている。こういうやりとりができる店、真摯な姿勢が感じられる店は、わたしはやっぱり好きだな、とあらためて思った。
チュニジア料理は日本ではまだまだ目新しく、店舗数もほんのわずかだけ。あまり増えて欲しくはないけれど、競争は質の向上を生むという実感を日々強めているわたしにとっては、「イリッサ」にはぜひともがんばってもらいたい。そして、チュニジア料理も個人の好みによって、ある程度店を選べる日がくればよいのになあと思う。