『トップ・ボーイズ』初日レポート
『トップガールズ』の舞台イメージ。 歴史上の有名な人物がたくさん登場します |
作・演出の関根信一さんはこの点について「普通の芝居なら一人でお腹いっぱいになるほど個性の強いキャラが一度に大勢登場するというおかしさは、『gaku-GAY-kai』でいつも楽しんでいるパロディの精神に通じると思います」とコメントしています。
一方、『トップ・ガールズ』は後半、現代イギリス女性の現実がわりとシビアに描かれていますが、この『トップ・ボーイズ』もそうでした。関根さんはこう語っています。
「第一部の登場人物たちが望んで得られなかったものを、現代に生きる僕たちは、ちゃんと手にしているんだろうか、という。差別と偏見の中で生き抜いた人たちと今の僕たちは全然別の次元の存在ではなく、つながっているんだというようなことですね。いつの時代もゲイとして生きるのは大変だというようなことではない『つながり』を考えてみたいですね」
という前情報を聞いて、とても楽しみにしながら、8月5日の初日の舞台を観ました。
まずビックリしたのは、ハッピーエンドを信条としてきたフライングステージが初めて、決してハッピーではない、観客に問いかけるような形で劇を終えたということです。しかし、観客のみなさんは、気まずくなるどころか、大きな拍手を贈ってくれました。それはとりもなおさず、この演劇が(関根さんが)伝えようとしていたことへの共感の表明であり、演劇としての充実度(脚本の魅力)に対する拍手だったと思います。
ああ、フライングステージはついに、新しい地平に飛び立ったんだな、と思いました。
陽樹と鷹雄の「結婚」を祝うために、歴史上の有名なゲイたち…オスカー・ワイルド(キャラが立ってました)やハーヴェイ・ミルク(似てました)、フレディ・マーキュリー(セクシーでした)、三島由紀夫『仮面の告白』の主人公(このシーンの要でした)などが次々にやってきてパーティを開きます。投獄されたり、殺されたり、エイズで亡くなったりした歴史上のゲイたちがその生き様を語る場面も胸を打つものがありました。でも、後半は陽樹と鷹雄のリアルな関係性、シビアな現実が描かれていくのです…
歴史上のスター以外にも、途中、いろんな魅力的なキャラクターが登場して楽しませてくれました。特にOLのしのぶちゃん(女装)にはゲラゲラ笑わせてもらいました。ゲイバーのママもイカニモでよかったです。
そんなドタバタを楽しんでいるうちに、いつの間にか、え?と戸惑うような展開に進んでいき、そして、まさかのラストを迎えるのでした。
ある意味、フライングステージは、ずーっと同じことを追求してきた、同じメッセージを表現してきたと思います。でも、今回は、違う表現方法を取ったのです。もしかしたら賛否両論あるかもしれません。苦々しく思う方もいることでしょう。でも、きっと、メッセージはより強く観客に届いたし、胸に突き刺さった。そんな気がします。
終演後、たまたま客演の加藤裕さんとお話する機会があったのですが、関根さんが(出来上がりは遅いけど)役者への愛がある脚本を書いてくれること、人と人との関係性をとても丁寧に描いていること、などを語ってくれました。
今回の舞台は、まさにそんな関根さんの良いところが発揮されていたじゃないかな、と思います。
僕ら世代のゲイなら多かれ少なかれ経験するような、ゲイだからこその関係の難しさ、「もしも、こういうタイプの人とそうじゃないタイプの人がつきあったら…」みたいなことが、本当にリアルで(まるで昔の自分を見ているようでした)、気持ちがひしひしと、痛いほど伝わってくるのです。
この『トップ・ボーイズ』は東京プライドパレードの協力イベントとなっていますが、本当にパレードにふさわしい、ある意味「もう1つのパレード」とも言うべき、ゲイのリアリティが表現されていました。素晴らしかったです。
『トップ・ボーイズ』は15日まで上演されています。ぜひ、ご覧になってみてください。