ゲイの監督だからこそ
映画では儚い夢だったレッドカーペットを現実に歩いた(主演女優賞にノミネートされた)ガボレー・シディベ |
また、プレシャスは逆境にめげない不屈の(不思議な)明るさを持っています。彼女がフリースクールで「近親相姦(insest)」を「昆虫(insect)」と間違え、クラスメートに笑われるというシーンがあります。「近親相姦」なんてプレシャスにとって最も聞きたくない、忌まわしい言葉であるはずなのに、いっしょにゲラゲラ笑っているのです。
ともすると重苦しく、深刻になりがちなところを、こうした軽いタッチのシーンが救ってくれています。監督は「人生にはこうしたユーモア(キャンプな感覚)が必要なのさ」と言っているかのようです。
それからもう1つ。
プレシャスは、恵まれない環境に育ち、スターになることを夢見て必死に生きている黒人の若い女性です。でも、どんなにがんばっても、ハードルはあまりにも高すぎて、挫折し、苦しみ…もうダメかと思ったとき、仲間が手を差しのべてくれて、一筋の光が見えてきて…そうです、プレシャスの生き様は(見た目も含めて)『ドリーム・ガールズ』のエフィ(ジェニファー・ハドソン)そっくりなのです。歌こそ歌いませんが、彼女が醸し出す愛嬌は、きっとゲイの心の琴線に触れるはずです。
ダニエルズ監督は「自分の心を癒すため、そして観る者の心を癒すために『プレシャス』を製作した」と語っています。二重三重の疎外を経験してきた彼だからこそ、『プレシャス』を映画化することができたし、決してお涙頂戴ではない作品に仕上げることができたのです。
そんなリー・ダニエルズは、現在はパートナーの男性と養子二人といっしょに暮らしているそうです。その幸せな家庭を想像するだけで、ちょっと涙が出ます。