セクシュアルマイノリティ・同性愛/映画・ブックレビュー

泣ける!映画『プレシャス』(2ページ目)

ゲイの監督リー・ダニエルズがアカデミー監督賞にノミネートされ、モニークが見事助演女優賞でオスカーに輝いた映画『プレシャス』。マスコミにも絶賛されている感動作のゲイ&レズビアン的な魅力をプッシュします。

後藤 純一

執筆者:後藤 純一

同性愛ガイド

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ゲイの監督だからこそ


ガボレー・シディベ
映画では儚い夢だったレッドカーペットを現実に歩いた(主演女優賞にノミネートされた)ガボレー・シディベ
プレシャスは殴られて気絶したり、ひどくショックな出来事に出くわすと、突然白昼夢のように「スター」になるという妄想の世界にトリップします。きっと自己防衛本能がそうさせるのでしょう、そのような条件反射的な保護術のおかげで、精神のバランスを保っているのです。(実際にガボレー・シディベがそうなったように)女優としてレッドカーペットを歩き、大勢のファンに囲まれたり、モデルとしてフォトシューティングに臨んだり、大物歌手として拍手喝采を浴びたり…思わずキャー素敵!と言いたくなるような、まぎれもなくゲイテイストなシーンです(その夢がゴージャスであればあるほど、受けたショックの大きさが窺い知れるのですが…)

また、プレシャスは逆境にめげない不屈の(不思議な)明るさを持っています。彼女がフリースクールで「近親相姦(insest)」を「昆虫(insect)」と間違え、クラスメートに笑われるというシーンがあります。「近親相姦」なんてプレシャスにとって最も聞きたくない、忌まわしい言葉であるはずなのに、いっしょにゲラゲラ笑っているのです。

ともすると重苦しく、深刻になりがちなところを、こうした軽いタッチのシーンが救ってくれています。監督は「人生にはこうしたユーモア(キャンプな感覚)が必要なのさ」と言っているかのようです。 

それからもう1つ。
プレシャスは、恵まれない環境に育ち、スターになることを夢見て必死に生きている黒人の若い女性です。でも、どんなにがんばっても、ハードルはあまりにも高すぎて、挫折し、苦しみ…もうダメかと思ったとき、仲間が手を差しのべてくれて、一筋の光が見えてきて…そうです、プレシャスの生き様は(見た目も含めて)『ドリーム・ガールズ』のエフィ(ジェニファー・ハドソン)そっくりなのです。歌こそ歌いませんが、彼女が醸し出す愛嬌は、きっとゲイの心の琴線に触れるはずです。
 
リー・ダニエルズ
こんな素敵な(ゲイテイストな)作品を生み出すことができたのは、リー・ダニエルズ監督だからこそでしょう。彼は、人種についての偏見を扱った『チョコレート』の他、幼児虐待を扱った映画『The Woodsman』、そして『プレシャス』と、マイノリティや傷つけられてきた人々を映画にしてきた方です。監督自身も子どもの頃、赤いハイヒールを履いているところを父親に見つかって「お前はゲイで何の価値もない」とゴミバケツに放り込まれ、ずっと殴られ続けてきたそうです。父親だけでなく、ホモフォビックなブラックコミュニティの中で、彼はいつも孤立していたそうです。
 
ダニエルズ監督は「自分の心を癒すため、そして観る者の心を癒すために『プレシャス』を製作した」と語っています。二重三重の疎外を経験してきた彼だからこそ、『プレシャス』を映画化することができたし、決してお涙頂戴ではない作品に仕上げることができたのです。

そんなリー・ダニエルズは、現在はパートナーの男性と養子二人といっしょに暮らしているそうです。その幸せな家庭を想像するだけで、ちょっと涙が出ます。
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