下町の本格的な蕎麦を、お洒落な街角で手繰れるシアワセ
東京の蕎麦やをざくっと語ってしまうと、実力の下町、ビジュアルの山の手、という大きなトレンドがある。もちろん、これは公式でも公理でもなく、単なる個人的な先入観にすぎないのだが、それを裏切ってくれる店と出会ったときに、下町では落胆し、山の手では舞い上がる仕義とあいなる。
最近は、山の手のほうで嬉しく裏切ってくれる店が多くなってきたような気がしている。
蕎麦たじまは、今年の6月に発売された「日経おとなのOFF」に築地そばアカデミーを取りあげていただいたが、その同じ蕎麦特集にニューウェーブのそば店として紹介されていた。
そのそばの画像が旨そうなのが印象的で、早く訪れてみたいと思っていた一軒である。
▲控えめな看板(愛育病院の交叉点そば)
たじまは、どの駅からも便利ではない。まぁ、こそが、散歩の目的地としての蕎麦屋という私ごのみの個性でもあるのだが。愛育病院のすぐそばの交叉点にコンビニがあって、その向かいにそばの幟が立っていたら、それが目印だ。看板はご覧のようにあまりにも控えめ。中休みや開店前に訪れたら、うっかりすると見落としてしまうほどだ。
▲エントランスを客席から内観
和紙で効果的にディフューズされた小洒落た照明に壁面がふちどられ、心を馴染ませる陰翳をもたらしている。いかにも山の手風のこういう演出は、洗練された印象をもたらす。
▲清潔で整ったフロア
フィリップ・マーロウが好んだ、その日の営業をはじめたばかりのピカピカに磨き上げられたBarのような魅力。そういった清々しい空気感がここにあった。街の喧噪からしばし離れて、綺麗な空気のなかでしばしの時間を過ごしたいと思い立ったとき、いい蕎麦屋は猥雑さから逃げ込むシェルターたりうる。
:そろそろ、注文したあのそばが来るころだ