そば打ちの「のし」は、いちばん長い工程


そばを打つ工程のなかで、一番長時間(といっても10分かそこらですが)におよぶのが、この「のし」の工程です。のしとは、文字通り「均一にのす」ことです。全く創造性のない、地味なプロセスです。

多くの人がのしにストレスを感じるのは、失敗すると麺帯を破いてしまうことになり、その姿がとても悲惨だから、つまり、失敗が目に見えてわかるからでしょう。そのため、初心の頃は、麺帯を破いてしまうというリスクを避けるために、適切な力を与えることができずに、結局満足に麺帯をのすことなくお仕舞いにしてしまうという悪循環に陥りがちです。この意識こそが、「意に反した太い蕎麦」にしてしまう最大の原因です。

中級者の壁と悩み


興味深いことに、のしのコツをつかみはじめる中級の段階になってくると、逆に強引な力でのし続け、特に麺帯の端のほうを極限まで薄くしようとします。
外形の四角や円形ばかりに気をとられ、全体の厚みムラを整えずによしとしてしまうのも、この中級レベルの傾向です。

その結果、途中のプロセスで丸や四角が「はた目からは」正確にきれいに出るようになります。打っている姿が見違えるほど格好良くなり、「のし」まではご自分の姿にうっとりと心酔できるのも、中級者の特徴です。

でもしかし、この直後、畳んで切る段階を迎えると、中級者は上級者やプロの腕前とご自分のそばの間には、いまだ大きな隔たりがあるという現実に直面してしまうのです。

中級者の方は、皆さん口をそろえて庖丁の技術をもっと上げたいとおっしゃいます。切った麺が、太かったり、細かったり、まちまちになってしまうことを改善したいと思っておられます。

でも、ちょっと待ってください。あなたがのした麺帯は、本当にむらなくしっかりとのせていますか?もしも、のした結果が均一になっていなければ、いかに同じ幅で切っても同じ太さの麺にはならないのです。これは、当然のことですが、案外見落とされがちなポイントです。

のしの精度が、麺の品質をものがたる


趣味として打つのにせよ、そば店を経営して毎日お蕎麦をお客様に出すにせよ、麺線をきちんと揃えるということは、とても大事なポイントです。ゆめゆめ、「手打ちだから、太さにムラがあるのが魅力なのである」というたぐいの、自分の技術力の低さを合理化するために発せられる、愚にもつかない詭弁には耳を傾けないでください。

そばは、均一に切れているからこそ、適切な時間でしっかりと茹でられるのです。麺の均一さは、単に見映えだけの問題ではなく、食味や食感に重大な影響をおよぼす要素であるということを、認識してください。のしの精度は、とりもなおさず、その麺の品質に直結しているというわけです。

のしのコツって何でしょう


そば打ち全般について云えることですが、上達への近道といったたぐいのことは、あまりありません。遠回りしないように、各々の技術を磨いていくということが、コツのすべてといえます。

ノシを遠回りしないということは、どういうことでしょう。皆さんは、のした結果をどのようにチェックしていますか?遠回りをしないために、のした結果を即座に手のひらでなでて厚みとムラをチェックしてください。そして、ここで得た情報を頭の中にインプットしておき、麺棒を使う強さと方向を決めるために役立てるのです。

厚みのチェックは、狭い範囲に触れてみるだけでは不十分です。手のひら全体を使って、いまのしたところ全部に触ってみるくらいのつもりで、大きく大きくチェックしてください。

ノシの厚みをチェックする際、専用のゲージがあると心強いです。築地そばアカデミーでは、
そば厚みゲージ
を利用して、のし上がりの厚みをチェックしていただいております。

そのせいもあってか、築地そばアカデミーでおそばを習う人は、はじめてであってもまずまずの結果を得ているように思います。

のしは、すべてのプロセスで厚みにこだわる



ここまで、のしの概念を述べましたが、この項ではのしの具体的な方法について、少しだけ触れます。

まず最初に、用意した玉(でっち玉といいます)を手のひらで均等につぶします。このプロセスを「つぶし」とか「地のし」とよびます。何気なくやっているように見えて、実は、このプロセスがすべてののしの中で一番重要なのです。外形が多少丸くならなくても結構ですから、ひたすら同じ厚みにするよう仕上げてください。

次に、麺棒(のし棒)を使ってぐいぐい力をこめてのす丸出しです。ここは、外形は多少ラフでもいいですから、とにかくできるだけ早く二回りほど大きな円にします。このときも、可能な限り厚みを整えるようにするのがコツです。

さらに、麺棒の力を抜いて、なめらかに動かしながら、外周の丸みを整えると同時に、全体の厚みをより正確に整える平のしを行います。

このあと、丸から四角へと形を変化させる「四つ出し」を行い、幅を整える「幅だし・肉分け」を経て、均一の麺を切るたのに、すべてを同じ厚みに整える「本のし」へと進んでいきます。要するに、のしのすべてのプロセスにおいて、「厚みを一旦均一にしてから先に進む」という原則を繰り返しているわけです。のしがうまくいっていない人は、例外なくのしの途中で厚みが均一になっていないのに、先のプロセスへと進んでいってしまう方です。

本当にちょっとしたことなのですが、「すべてのプロセスで一旦厚みを均一にする」という原則さえ守れれば、見違えるようなのしあげりになりますので、ぜひともお試しください。

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次は、「切り」について紹介してまいります。次の配信をお楽しみに。

【Copyright 2006 著作者:井上明 All Rights Reserved】


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