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手打ちそば・加水論

そばを打ちには、大きくわけて三つの仕事がある。その第一番目が、「加水」すなわち「水まわし」という工程です。これさえ完璧なら、いいそばが約束されたようなもの。そしてそれは、事実なのです。

執筆者:井上 明


そば打ちは、たったの3工程


そばを打つという事は、大きくわけて三つの仕事をするということです。
その第一番目が、「加水」すなわち「水まわし」という工程です。これさえ完璧なら、いいそばが約束されたようなもの。そしてそれは、事実なのです。
ちなみに、あとの二つは、水まわしした粉をまとめて薄くする「のし」、そして生地を畳んで麺に仕上げる「切り」です。
そば打ちというものは、このたった三つの仕事しかしていないということになります。なお、玉にするプロセスは、のしの前準備ですので、築地そばアカデミーでは、広義ののしの一部として捉えています。

そば打ち・水まわしのポイント


そば打ちの工程は、どの工程も例外なく以前の工程の結果に依存します。つまり、すべての工程において大きな失敗をしてしまうと、そこで失った品質を取り戻すことはできないということを、意味します。

それでは、どんなところに注意して、「水まわし」をしていけばよいのでしょう。
ひとつには、入れすぎた水は取り返しがつかない、ということです。「水まわし」とは、とりもなおさず、粉と水分の関係をまんべんなく均一にするという手続きです。それゆえ、粉に対して水をあわせていって、適切な加水状態になったら次のステップに進むということになります。

ところが、うっかり水を多く入れすぎてしまうと、もう取り返しがつきません。過剰に水が入った粉に、乾いた粉を加えても、その玉をよい蕎麦を打てる状態にリカバリーすることは不可能なのです。

なぜならば、後から粉を加えるということは、せっかく丁寧に水まわしを進めてきたのに、いきなり「不良加水の状態を作ってしまう」という乱暴な事だからなのです。

手でさわって、水まわしの感覚をつかもう


私は、築地そばアカデミーにおいて、水回しをとても大切にお教えしています。水まわしの結果は、参加された生徒さん全員に実際に触っていただき、正しい水まわしの感覚を具体的につかんでいただくようにしています。

DVDやインターネットを通じてどんなに画像を見ていても、この感触ばかりは、やはり実際に体験しないことには、理解することができません。築地そばアカデミーでは、水まわしが完了する直前と、水回しがしっかりと完了したとき、皆さんにそば粉の状態を触っていただいております。
どちらで習うにせよ、そば教室でそば打ちを習う場合も、ぜひとも「水まわし」の結果を実際に触らせてもらえるよう、先生にお願いしてみてください。

水まわしがしっかりと完了した粉は、しっとりとして、重い感触となります。粉が一度この状態になれば、このあとの工程はとても楽になります。
先にも述べたように、そば打ちの仕事は取り返しがつかない工程の連続です。水まわしが不充分なまま先に進んで、どんなに練ってツヤを出そうとしても、それはもう手遅れなのです。

そば打ちは、地味な仕事ほど大切


打ったそばが、ぼろぼろと短く切れてしまうという典型的な症例は、とりもなおさず加水不良なのです。
私は、ずいぶん長い間、手打ちそばをお教えしてまいりましたが、築地そばアカデミーなどで私がお教えした生徒さんは、はじめてであっても必ず長いそばをお持ち帰りいただいております。

まぁ、最初から思うような細さに切れるかというと、それはまた別の技術なので、のし~切りの練習が必要なのですが。

本稿の最後に、一言申し添えます。手打ちそばは、「地味に見える工程ほど大切」ということです。私はよくテレビや雑誌等の取材を受けて、蕎麦を打っているところを画像にしていただいておりますが、メディアの皆さんが好まれる「派手なアクション」のプロセスは、大抵あまり重要ではないのです。

地味といえば、加水(水まわし)は、これ以上ないほど地味です。みなさんも、そのような認識で水まわしに向き合えば、きっと上達のスピードが上がることでしょう。
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次は、「のし」について紹介してまいります。次の配信をお楽しみに。

【Copyright 2006 著作者:井上明 All Rights Reserved】

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※メニューや料金などのデータは、取材時または記事公開時点での内容です。

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