そば/東京のそば屋

一度でいいから、たっぷり汁をつけて蕎麦を…なんて 浅草・並木藪蕎麦訪問記(2ページ目)

そば汁の基本である「返し」は、醤油に加熱をしない生返し。江戸の香りをそのまま残す、粋なそば屋

執筆者:井上 明


伝説的な味覚「生返し」

やぶそばの看板
▲名店の暖簾や看板には、やはり独特な味がある
看板をよく見て欲しい、そばの「ば」は、普通「者」(『む゛』のように見えるやつ)を宛てるのだが、「波」を変体仮名として宛てており、ちょっと珍しい。「ぶ」の字はテンプラでもおなじみの「婦」である。

さて、並木の藪…池之端と神田の藪をあわせた「藪御三家」の一員である名店中の名店。醤油に一切加熱せずに、仕込んだ物を土中の甕に入れて長期間寝かすという手間暇かけた「生返し」は、伝説的な味覚である。

ただし、この汁…そんじょそこらのそば屋の汁と同じように、たっぷり浸してしまったら、辛くて大変なことになる。落語じゃないが、たくり寄せた麺の下三分の一をちょいと浸して、つつーっつと手繰るのが、ここんちの楽しみ方だ。


板わさ
▲蒲鉾(鈴廣の上板と見た)は、飾り切りなどせずに直球勝負。江戸の赤みそベースの蕎麦味噌も添えられる
席についたら、早速「板わさ」と「蕎麦前(日本酒のこと)」を所望。酒は店内にどーーんと据えられている菊正宗の樽酒だ(630円)そして、どうでしょう。このお盆のオサマリのよさは。至福が隙なく満たされている感じですね。


寒い冬に愉しみたい一杯

玉子とじ
▲ありきたりのメニューだが、実は麺と玉子を熱々でキレイに提供するタイミングが難しい
並木のざる(盆ザルの天地を返して提供する有名な一枚)は、粋なその姿が人口に膾炙せしむるに足る一品だ。本日は、あまりにも有名なざるはさておいて、そば屋の釜前さんの腕前が問われるという「玉子とじ(900円)」をお願いすることにした。

寒い冬に愉しみたい、優しい風合いの一杯。ざるの汁とはちがって、一滴残さず飲み干せる位に仕立てられたかけづゆと蕎麦の上に、一枚の浅草海苔が敷かれて、その上にふんわりと溶かれた卵二個分がのっている。見事だ。


蕎麦湯
▲伝統的な朱塗りの角湯桶もいいが、このタヌキみたいな土瓶も愛くるしい
さあて、こういうそば屋に長っ尻は禁物。

くーっとヒッカケて、つつーっと手繰って。土瓶で供されるそば湯を楽しんだら、おもむろに、どこか別の粋なトコロに河岸を変える。これが浅草の正しい楽しみ方というものです。

今宵あたり、あなたも、いかが?


【並木 藪蕎麦】
営業時間:11時30分~19時30分
定休日:木(定休日が祝日の場合は翌日休)
所在地:東京都台東区雷門2-11-9
地図:Yahoo!地図情報
交通:東京メトロ銀座線・都営浅草線・東武線浅草駅
駐車場:なし
料金:ざる650円、鴨南そば1700円
  • 前のページへ
  • 1
  • 2
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※メニューや料金などのデータは、取材時または記事公開時点での内容です。

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます