シンプルなだけに、、漠然と食べてしまうのではつまらない。おそばを美味しくいただくためのツボを知っていると、意外なほど深い楽しみがあります。
こんどお蕎麦やさんを訪れたら、次のようなポイントをさりげなく抑えてみてはどうでしょう。
□蕎麦が運ばれてくる雰囲気をまず楽しむ。給仕するフロア係の様子、丁寧に扱われているか、清潔感は?期待を高めてくれる演出や気配りがあるか?
□蕎麦の香りを感じてみる、香りのするものもある、しないものもある。冷たいそばだけでなく、温かい蕎麦も、提供された料理の香りを感じるようにする。香りは、やがて空中に逃げていく。二度と取り戻すことはできない。
□盛りつけの妙を賞でてみる。器の配置、選定の趣味、色合い、店との調和、薬味の種類と配置そして処理の巧みさ、薬味それぞれの量。
□蕎麦そのものに注目してみる。蕎麦の盛り込み、ボリューム感、水きれの適切さ、しっかりと角を立てて切られているか。色合いは、太さは、長さは、均一か?いかにも手繰りやすそうに盛られているか。
□箸を割り、蕎麦を一本だけ啜ってみる。香りは、固さは、ゆで加減は、甘みは、歯にぬかることはないか、気持ちよく啜れるか、喉ごしの感触は?この一本食いは、ワインのテイスティングのようなものである。
□汁の風情を楽しんでみる。どんな出汁の香りがするか?色合いは、濃さは?
□汁を口に少々含んでみる。辛いか甘いか濃いか薄いか。これもティスティング。
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□さあ、これで蕎麦を本格的に食べる準備が整ったわけです!これまでのチェックは、テスト走行のようなものでした。
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□蕎麦を二三本、多くても四五本箸でつまんで、これまで得た情報をもとに、汁をたっぷりつけるか少しだけにとどめるかを決め、その方針にしたがって食べる。少くとも最初の一口は薬味を入れずに汁を使うほうがよいだろう。
□数口そばを楽しんだら、利きの弱い順に薬味をほんの少しずつ加えていく。
□たとえば、大根、ねぎ、山葵の三種が薬味として提供されている場合、大根→ねぎの順で、ほ~んの少しずつ加えてみる。ほんの0.1gを加えるだけで、汁は劇的に変わる。その位繊細なものなので、この変化を楽しまないのは損。最初から汁に全部の薬味をどばっと入れてしまう人は、その時点でそばの楽しみの三分の二を拠棄しているに等しい。
□山葵は、汁を汚してしまう薬味なので、汁につけないようにして使うのが基本。お勧めは、口が飽きてきたとき(なかなか飽きるヒマがないが(笑))ペロッとなめる。すると口中の味覚がリセットされる。どーしてもそばと一緒にという人は、汁にではなくて麺に直接山葵を塗って、その部分を汁につけないようにして手繰りこむとよい。
□薬味は、段々加えていくといろいろな味に変化していく。そばは、これほどシンプルな料理なのに、驚くばかりの変化が楽しめるのだ。深いのである。
□笊やせいろに残ったキレハシは、割り箸を立てると簡単につかめる。でも、いい店って、最初からキレハシを盛り込んでいないので、そんな技が不必要だったりする(笑)。
□最後にそば湯である。最初に薬味をどばっと入れてしまった人には、もう一度悔しい思いをしていただこう。できるだけ蕎麦を完食するまで汁は澄んだままの状態できれいに食べよう。最後のそば湯を至福の瞬間とするためにである。
□おもむろに山葵で口直ししたあと、澄んだ汁を、そば湯で割る。そこに、しゃきっとした薬味を少しずつ放って、ふたたび味の変化を楽しみながら、汁をすべて呑み干し、薬味もすべて完食してしまうのである。
粋に蕎麦を食べる人は、食べ終えた器まで粋なのである。
美味しくいただくことができたら、店を出るとき美味しかったという感想を伝えてあげると、お店の人は喜ぶし、何よりもはげみになる。もしかしたら、ご主人が直接どうして美味しいかというヒミツを教えてくれるかもしれない。
こうして蕎麦は人を繋げていくのである。これが最後の楽しみ。
このようにいくつかのチェックポイントを抑えておくと、蕎麦の楽しみ方がぐっとグレードアップするのだ。蘊蓄はひとまず置いておいて、そばの旨さを全身で感じてみよう。そういう気持ちでそば店に入ることが、蕎麦を楽しむための最大の秘訣なのである。
最後に一言、これらのチェックはあくまでもさりげなく行うこと。わざとらしいのは、不粋です。
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