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永年築地で商売し、この町を愛する人の激白 辛口そばエッセイ・築地はいま

関東の台所「築地」がこのごろちょっと様がわり。昔からこの街で商売を営んでおられる老舗のご主人にレポートをお願いした。ちょっと辛口の寄稿です

執筆者:井上 明

関東の台所「築地」がこのごろちょっと様がわり。昔からこの街で商売を営んでおられる老舗のご主人にレポートをお願いした。ちょっと辛口の力作です。

■特別寄稿:築地仲卸 伏高 中野克彦さん

【現地レポート】観光地化する築地の“いま”

おはようございます。伏高の中野です。

「○○○がそろそろダメなようですよ」

朝食を食べに行った従業員がどこかで聞きつけてきたようです。

どうやら、築地で昔から営業している飲食店さんでお給料が遅配になっているらしく、潰れるのは時間の問題らしい。

今時のご時世です、飲食店が倒産してしまうのは驚くことではないのですが(売掛金が残っていると困るのですけど)、この件は、ちょっと違います。最近の築地の様変わりを象徴する出来事なのです。商売人相手の街である築地が観光地になりつつあります。

ここ数年、築地で新規開店するお寿司屋さんが続出しました。この新興お寿司屋さん、どちら様も本当にご商売にご熱心で、工夫をしながら、いわゆる観光客さんの集客に努力されています。お陰で私は、相当に、集客の勉強をさせていただいております。

ホント、今までの築地の連中は弊店も含め努力がなさすぎる、まあ、良くも悪くもそれが築地カラーでもありますが・・・(だからマネーの虎にはなれません)

さて、マスコミの方々が、ここ数年間、

「築地は食の中心地、プロの舌を満足させる築地の飲食店は どこも旨い」 といった感じで、安易に紹介する(マスコミ関係の方スイマセン)ので、それを信じて築地にやってくる観光客が増えたこと。特に、お寿司を食べに来る人が多いんですね。どうやら、観光バスのツアーまであるらしい。

確かに、築地にも旨い食べ物屋さんはあるけど・・・他の街と同様に、旨い店もあれば不味い店もありますよ。

築地の人間が飲食店さんに求めることは、

「早く出てくる」ことが第一で、味は二の次です。

築地に仕入れに来る人や築地で働く人には、のんびり食事をしている時間なんかないんです。席に座ったら、すぐ目の前に食べ物が出てこなくてはなりません。ましてや、お寿司なんぞを並んでまでは、絶対に、食べません。築地に来て、何も食べずに帰る買出人の方が多いかもしれません。

さて、増えた観光客さんは、どこでお寿司を食べていいのかわからない。だから、商売上手な新興お寿司屋さんに、その大半が流れてしまうのは自明の理。となると、中途半端に営業していた、昔ながらの寿司屋さんがダメになってしまうのです。

余談ですが、築地には滅茶苦茶お節介な人間がおりまして、観光客相手のお寿司屋さんで食べて、がっかりしたんでしょう。帰りがけにこんなことをお寿司屋の人に云ったそうです。

 「築地はプロが集まる場所だから、もう少しネタを良い物にしないと、商売がダメになるよ」

そしたら、店の人はにこやかに答えたそうです。

「ウチは観光バス相手に商売しているから今のままで充分なの」

これでは、マスコミを信じてくる観光客さんは浮かばれませんが、築地という独特の雰囲気の中で、テレビ番組や雑誌の記事を信じて食べれば、きっと旨く感じるんでしょう。とりあえず、それはそれで幸せですね。

そのことに、観光客の方々が気が付く頃には、新興の寿司屋さんには、しっかりと儲けが残り、いざとなったら、閉店でしょうね。まあ、その手の店は他の街にも店を持っているし。これがプロの経営者なんでしょう。

新興の寿司屋さんの中にもきちんとしたネタを提供されている店も、もちろん、ありますが・・・

日本は自由主義社会ですから、ビジネスチャンスがありそうな場所には、商売上手の方が集まるのは必然です。でも、このまま行くと、築地の街が観光地になってしまいそうで、怖い怖い。

大体、築地にお寿司を食べに来る観光客さんに鰹節のような乾物(調理に手間がかかる食材)が売れる訳がありません。売れる物は、デパ地下と同じ、すぐ食べられるものばかり(中にはお料理が大好きな方もいらっしゃますが、極々少数)。

こうなると、物品販売業の店も、変質して、築地とデパ地下が同じようになってしまう。事実、新しくできる店は飲食店か調理をほとんどせずに食べることが出来る食材を売っている店です。

何でプロの方々が築地まで仕入れに朝早く来るかご存知ですか?第一の理由は食材の品揃えです。築地に行けば何でも手に入る。築地が観光地化して、品揃えが片寄ってしまえば、商売人への魅力がなくなり、商売人が来ない街になってしまいます。となれば当然、今の様なプロ相手の商売は成り立ちません。

素人の方だって同じです。弊店の築地の店にはいわゆる素人の方も沢山お見えになりますが、皆さん、料理が好きな方。近所のスーパーや百貨店では手に入らない食材を求めに、わざわざ築地までいらっしゃいます。

観光客さんなぞよりも、このような料理好きの素人さんの方が、弊店にとってはずっと大切なお客様です。

街は生き物ですから、常に変化しています。私の都合で街が変わる訳ではないので、こちらがその変化に対応して、商売を考えなくてはなりません。

私は築地の観光地化を恐れつつも、避けられないような気がしております。そりゃー、「築地で売っている食べ物はすべて美味しい」と先入観を持っている観光客相手に売る方が簡単で楽ですから。でも観光客相手の土産物屋に業態を変えたくは絶対にありません。そこで、弊店では、繁華街にある飲食店様に出向いての営業、いわば、かつお節や昆布の外商に力点を移しました。

実は、築地を利用しない飲食店さんが、すでに、増え始めています。このままでは、もっと増えそうな気配です。色々な理由からプロが離れ始めた築地にですが、その築地に観光客が集まり始めた理由が、マスコミが発信する「プロを満足させる築地」のイメージであるとは因果な話です。

築地が観光地化してしまうと、商売人が来なくなるから、逆に、観光客の方にしてみれば、魅力がない街になってしまい、最後には観光客も来ない街になる、と思うのですが、どう思われますか?

生まれ育った築地の街が、マスコミや観光業界に、使い捨てにされるのは寂しいものです。これから暮れにかけて、築地においでになる方も沢山いらっしゃると思いますが、観光客相手の商売屋とそうではない商売屋を見比べるのも面白いかと思います。観光客相手の店の方が、買い物はし易いとは思いますが・・・

10年後には、築地の市場が移転します。市場がいなくなった築地はどうなることやら・・・今日は朝からつまらない愚痴ばかりで、申し訳ございません。おつき合いいただき有り難うございました。

02.11.26

special thanks: 築地仲卸 伏高
http://www.fushitaka.com/
中野さん! 貴重なお話ありがとうございました。料理好きを自負するガイドもこちらのサイトで築地レポートをしていこうと思っております。どうぞよろしくお願い申しあげます。

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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※メニューや料金などのデータは、取材時または記事公開時点での内容です。

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