マンガリッツァを蘇らせた男
全身を羊のような巻き毛で覆われ鼻先とひづめが黒いこの豚は、マンガリッツァという。ハンガリーで19世紀に生まれた血統で、皮下脂肪が分厚い。第二次大戦までは数100万頭が飼育されていたが、脂身が少ない豚肉が好まれるようになったことから、生産者は赤身が多い品種の豚へと移行していった。このマンガリッツァに価値を見出し、絶滅から救おうと1991年から各地に残された個体198頭を収集したのがトート・ペーテル氏(ハンガリーでは日本と同じく姓・名の順で記すため「トート」が姓)。全国マンガリッツァ飼育業者連盟の会長である。
トート氏が誇るのはその味わい。彼は「マンガリッツァは血統として国内や近隣の国で小規模な生産は行われている。だが、ハンガリーの気候風土と伝統的な飼料できちんと育てたマンガリッツァは味がいい。例えば我々は、肉に独特の匂いを残す大豆を与えず、ハンガリー特産のひまわりの種、大麦、小麦、トウモロコシなどを餌の9割以上にしている。厳しい飼育方法を守るように飼育家と契約を結んで、ブランド豚として育てているんだ」と熱く語る。
現在ハンガリーで5万頭ほど飼育されているマンガリッツァ。こうした契約で育てたマンガリッツァを自社工場で加工するというピック社は、市場に出回るマンガリッツァの大半を供給している。さて気になるのはその味わいだ。では会場でマンガリッツァを試食してみよう。