野生の生命力を血肉に
この店では、秋口から冬にかけてジビエ(野生動物の肉)が名物となる。2009年10月中旬のメニューを見ると国内10種・海外5種のジビエがコースに組み込まれており、例年11月にはシェフの羽立昌史(はだち・まさし)氏が自らライフルを手に仕留めた獲物がお目見えするという力の入れようだ。取材時はスコットランド産のライチョウが入荷していたので、フォン・ド・ヴォー(仔牛の出汁)に栗の花の蜜とオレンジを加えたソースとイチジクを添えたローストに仕上げてもらった。
どうだろう?この料理ときたら――ジビエ好きがヨダレを垂らしそうな、艶かしい姿ではないか! どこかの高級店で、ペラペラの薄切りで鎮座しているようなライチョウではない。半身を使って、かなり厚目にスライスした胸肉はじゅうぶんな歯応えがあり、噛むほどに赤い血潮と生命力、そして旨味が染み出してくる。写真にライチョウの足先が見えるが、胸肉の下に置かれた腿肉はしっかりと火が通って、ライチョウの匂いが濃厚である。手づかみで齧りつけば、むせかえるような野性的な歓びが味わえる。
シャトー・ドメーヌ・ド・レグリーズ 1997年 |
野生の滋味がたっぷりのライチョウに、イチジクが甘くやわらかく寄り添う。そこに熟成したポムロールの風味、土の香りやドライフルーツのような熟した甘やかな風味が融け合って、しばし至福の時間が訪れる。いつの間にか満席となったテーブルの間を数人のスタッフがきびきびと立ち働き、客のかもし出すにぎやかなざわめきが、店内を心地良く充たしている。
さあ、デザートを食べなくては!