国際結婚に似合うワイン
料理は、すべて日替わりである。『本日のMENU』と題された紙一枚のメニューにはこの日、33種類の料理が載っていた。小ぶりな前菜が18種、主菜は8時に焼き上がる『仔羊モモ肉の1本ロースト』を含めて7種、サラダ6種、パスタ、チーズという構成だ。テーブルチャージ・パン代として300円かかるが、パンには小皿にすりおろしたパルミジャーノ・レッジャーノ・チーズとオリーブ油がついてきて、これだけでもちょっとしたつまみになる。料理名は分かりやすさを主眼に、たっぷりのユーモアが盛り込まれている。例えばこの前菜、『スペインとメキシコの国際結婚』をメニューに見つけて、思わずスタッフに「これ何ですか?」と尋ねる。スペイン産ハモンセラーノを薄切りにして、とろりと甘く熟したメキシコ産マンゴーに乗せた料理だ。生ハムとマンゴーを一緒に口に入れる――すると噛むほどに甘味と旨味と塩味、脂とねっとりした完熟風味が溶け合って、食材同士が口の中で「国際結婚」するという仕掛けである。
この料理に林氏が薦めるのは、ドメーヌ・ローラン・ペール・エ・フィスが造る2007年ヴィンテージのブルゴーニュ・グラン・オルディネールというロゼワイン。フラジェ・エシェゾー村のガメイ種ブドウを使い、甘やかな風味を短時間抽出するセニエ方式でロゼに造り、熟した果実味を生かしたふくよかな味わいに仕上げている。フランスワインだから料理とのマリアージュも「国際結婚」という事になるが、色合い的にはロゼのオレンジがかったピンクがマンゴーの色とマッチして、味わいもマンゴーの完熟風味と通じるところがあり、これはもう申し分ない。さらに言えば本格的なワインバーで、一般に軽んじられがちなロゼワインの美味しさをさりげなく体験させるあたりはさすがである。