ワイン/特別な日の高級ワイン

サクラ咲く今、このワインを味わって考える(2ページ目)

今年もサクラが咲き、美しい姿を見せる。花見で賑やかに飲むのもいいが、この時期味わってみて欲しいワインがある。気になるエピソードも一緒に……

執筆者:橋本 伸彦


『サクラ祭り』と収容所脱走

出会いと離別。終わりと始まり。そんな日本人の季節感を、サクラは彩ってきた。サクラをラベルに描いたワインが、もう一本ある。1944年8月5日のことである。戦争捕虜収容所から日本人捕虜1,000名余りが脱走しようとして、その内200名以上とオーストラリア兵らが死亡。オーストラリアのシドニーから西へ約300キロのカウラ市で起こった事件である。

サクラの開花が描かれたラベル
サクラが満開のラベルで春の到来を祝いつつ、味わいに思いを馳せる

当時の日本人にとって、敵国の捕虜になるのは「生き恥をさらす」ことに他ならなかった。そのため「生きて虜囚の辱めを受けず」とばかり、無茶な脱走が企てられたのだった。死者は日本人墓地に葬られ、そこから桜並木を行くと日豪友好のため作られ有名になった日本庭園があり、ここで毎年『桜祭り』が催されている。サクラ・シラーズというラベルは、ここのサクラに因んだものなのである。

このワイン、今年はサクラが咲く季節のリリースとなった。重いメッセージにもかかわらず、輸入元では即座に完売したという。この季節、花見で騒ぐばかりではなく、戦争の不幸なエピソードを思い起こしながらこのワインを飲む人も少なくないようだ。


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