冬休みに読みたい紅茶ミステリーとして平岩弓枝さん著『セイロン亭の謎』をご紹介します。
セイロン亭の謎
平岩弓枝(著)『セイロン亭の謎』新潮文庫
神戸の名所である北野の異人館の奥にあるずば抜けて立派な高見沢家。高見沢家は代々、紅茶輸入業を営んでおり、現在はセイロン紅茶を中心に扱うティーサロン「セイロン亭」を経営。キャスターの矢部は、女性雑誌の特集で女性たちに憧れの紅茶の特集が組まれることなり、セイロン亭女社長の息子と大学時代の学友であったことからセイロン亭の取材をすることとなります。

取材を終えて東京へ戻った矢部に豪華な屋敷で起こった殺人事件が伝えられます。事件について深く関わってくるとともに、徐々に露わになってくるかつてのお茶をめぐる詐欺事件とその背景にある人間関係。これらのことすべてはお茶でつながれている。実家が茶業を営む矢部はこれらの背景を追及していくこととなるのです。
イラスト:yuka


この小説をミステリーとして読む興味のほかに、所々描かれるお茶のシーンにも興味を持って読んでみたい。主としてセイロン紅茶を出し、インド茶や中国茶も扱うセイロン亭。小説の前半にはセイロン亭の紅茶を飲む場面が描かれています。それぞれの場面が異なる状況、心理状態。注文された紅茶にはそれを飲む登場人物の心情が映ってきます。

お茶が出される第一の場面は、物語りが始まって間もなく描かれています。セイロン亭の取材で訪れたかつての学友をもてなす、久しぶりでいささかかしこまった場面。宿泊にと案内されたゲストルームで、マイセンのセットで用意されるセイロン・ウバ。店自慢の上等の茶葉をこれまた上等のマイセンで出す。紅茶を扱う仕事をしていながら、高見沢邸のリビングではお茶は出されない。少々訳ありな環境であることが伺えます。

高見沢家のリビングで一族の紹介とダイニングでの晩餐の後、ゲストルームに用意される就寝前のリラックス茶。中国、安徽省の紅茶は、はまなすの花をブレンドした花茶。

イラスト:yuka
取材を終えて東京へと戻った矢部が受けた知らせはセイロン亭女社長、高見沢隆子が殺されたということでした。再び、神戸へ向かった矢部は事件の裏にある複雑に絡み合う人間関係の深い渦へと巻き込まれていくことに。セイロン亭女社長のお通夜の帰り矢部がセイロン亭で注文したのはアッサム・ミストとアップルパイ。ミルクティに向いていることからアッサム・ミストを選んだのは、ミルクで紅茶をまろやかに、気持ちも和ませるという思いが込められていたのでしょうか?

セイロン亭絡みで3度目に神戸を訪れた矢部は、母親殺しの疑いをかけられた清一郎のところへ。そして、清一郎がセイロン・ヌワラエリヤを入れるシーン。その後起こるお茶(カモミールティー)を使った清一郎と矢部への毒殺計画。これは未遂に終わります。お茶には口を付けなかった矢部が清一郎の入院する病院からセイロン亭へ行き、紅茶とサンドイッチを食べ、落ち着きを取り戻すシーンなど。人間関係のもつれが引き起こす殺人事件というのはよくある設定ですが、人間同士が徐々につながっていくストーリー展開にお茶をいただく状況とお茶ビジネスのトラブルも絡んできて引き込まれてきます。この冬におすすめしたい一冊です。
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