うどん/味噌煮込み・きしめん

香露かけうどん 信濃屋 岐阜県多治見市

名古屋うどん文化圏の『ころうどん』の元祖といわれている信濃屋。ころかけと支那そばを注文するお客さんが多い。昔ながらの味を守る老舗に迫る。

執筆者:蓮見 壽

歴史を感じさせる信濃屋 信濃屋は以前から行ってみたかったうどん屋である。行けない理由はあった。日曜・月曜・火曜と店が休みだからだ。水曜・木曜・金曜・土曜の4日間に行くことが必要である。営業時間も11時から15時頃の売り切れるまで。もっと早く売り切れ閉店もある。そんなわけで何かのついでに立ち寄るという旅ではなかなか訪問が実現しなかった。やっと念願かなって行くことができた。 あいにくの雨だったがしっとりとした静かでこれはこれで風情があってよい。建物は歴史と年季を感じさせるが麺類と書かれた暖簾が比較的新しそうで颯爽としていた。店内は昭和の香りというか昔の食べ物屋さんという感じでテーブル席が1つ。こあがりにちゃぶ台が2つ。座敷があってその奥にも座敷があるようだ。雨の日の午後1時半過ぎなのに先客は何人も居た。

ころうどんは香る露

人気のころかけに歴史の重みがある 名古屋うどん文化圏でよく目にするうどんの品書きにころがある。ひやかけの一種でたまり醤油をベースにした冷たいダシがかけられている。このころという名称の発祥がこの信濃屋だ。正確に言えば先代の主人が修業した名古屋に有った信濃屋の看板商品であった。 ころとは香る露(つゆ)と書く。たまり醤油・鰹だしの一体化したうどんのつゆの香(かぐわ)しさをあらわした言葉だ。現在では東海エリアでは広く使われるメニュー名である。 基本はうどんに冷たいつゆをかけて薬味のネギとおろしショウガとゴマ。うどんの味そのものを味わう。その意味ではうどんの味に自信が無ければ到底出せるものではない。うどん喰いであれば具はいらないという思想だ。面白いのは信濃屋では40年前まではいわゆる一般的なうどんのお品書きも有った。今の店の表にはその当時の品書きも残っているのだがころかけと支那そばの注文が圧倒的に多く種物の注文が無くなっていった。それはうどんを味わうために具は不要だというお客からの要望であったようだ。

メニューは3種類

壁にかかるお品書き うどん600円  (温かいうどん) ころかけ600円  (冷たいうどんに冷たいだしのぶっかけ) 支那そば800円  (平打ちの腰の強い麺。) 小 半分 半額 (注釈 筆者) うどんは大変特徴のあるもので太くて滑らかな食感を持つ。口に含むとふわっと表面が溶ける様なそんな感触か広がる。溶けるわけではないのだが口の中に心地良い柔らかさが広がっていく。そのまますすり込めば喉にするりと落ちていく。噛めばモチモチとしながらも歯と歯茎に快感を与えるようにすっと切れる。一気にすするのがもったいないようなそんな気持ちになりながらも箸を動かし続けてしまう。色の濃いたまり醤油に鰹節のダシで、見ると味の濃さを感じて一種恐れも感じるつゆであるがまさしく香露で一種フルーティーな香りさえその奥には感じることができる。

支那そばもマニア御用達

ラーメンマニアも絶賛の支那そば 支那そばも手打ちでつくられる。平打ちで幅7ミリから8ミリ程度が厚さは1ミリ有るかないか。半透明で強い腰がある。スープはうどんのつゆの濃さを調整して自家製ラードを加えた特製。自家製ラードは良質の背脂のみつかってつくられるという。市販のラードではいろいろな部位の脂が混じるので風味に雑味が入るという。この支那そばもラーメン系のマニアには絶賛されている。連食向けにうどんも支那そばも二杯目は小を頼むことができる。

うどんの仕込み

午後4時過ぎには店は閉まって翌日のうどんの仕込が始まる。 小麦粉と塩水で練るのは普通のうどんと同じ。もっとも小麦粉も塩水も主人によれば普通のうどん屋が使うものということだが何か秘密はあるかもしれない。一つ違うことは水回し(塩あわせ)と捏ね(練り)で2時間半かかるということ。それも足踏みは使わないで手でこねること。 水回しに1時間30分。捏ねで1時間とのこと。じっくりと粉に塩水をまわして丁寧に攪拌するのであろう。粉の一粒にしっかりと水を含ませるのだろう。 小さな粒がだんだんとまとまってひらひらとした繊維状にまとまっていくのが目に見えるようである。生地の状態を目で見ていると明日来るお客さんに少しでも良いものを食べさせたいという気持ちになるという主人。そんなことを考えているうちにだんだんと練り上げている時間も長くなってきて今の時間2時間30分におちついてきている。手だけで2時間30分練るとどんな生地になるだろう。

1時間ゆでる

この生地を一晩寝かせて翌日うどんにする。かなり太目のうどんだが茹で時間を聞いて驚いた。1時間だ。しっかりと茹で上げるという。もう少し長く茹でるともっと面白いという常連さんとご主人、もう少し早めにあげたのが好きという常連さんも当然いるとか。好みは常連さんでも多様なのかも知れない。 うどんが途切れた時に訪問したら1時間待ちになるのだろうか。基本的にはお客さんの流れを見ながら茹でて置いて途切れないようにしている。心配なら訪問1時間前に電話しておくのも良いだろう。特に遠方から訪ねるときには確認しておくと良いと思う。 茹で置きも劣化が少なく茹でてから1時間半程度は十分美味しく食べられると主人は断言する。これも徹底した捏ねの賜物なのだろう。私の食べたうどんも10分ほどで出てきたから茹で立てではなかったろう。十分に美味しかったのは言うまでも無い。

つゆ

つゆは地域名産のたまり醤油に鰹だしとシンプル。ここにもこだわりがあった。 昔のたまりと呼ばれるものと比べて今のたまり醤油は味が異なるのだという。醤油も合理化による大量生産が安く均一なものは作れるようになったが味は落ちたという。 昭和40年代は醤油は2種類あわせて昔の味を工夫した。年を重ねるたびに3種類になり4種類になった。現在は4種類の醤油を合わせて昔の醤油の味を再現している。お客さんが「ここのうどんは昔と変わらないねぇ」と言われるのが嬉しいと主人の滝さん。 昔ながらの手法を守っていただけでは昔の味は守れないのが現実のようだ。 こうした仕込みの時間を考えると週3日の仕込み日というのはうなずける。

信濃屋の歴史

日々渾身の麺作りのご主人 創業が1930年頃というからもう70年以上続いているということになる。名古屋で創業されたようだが戦災で焼け出されて多治見の現在の場所に戦後店を出されたという。昭和23年のことだという。 現在の店主、滝 晶宣さんは二代目。今から23年前この店を引き継いだという。それまでのサラリーマンから家業を引き継ぐにあたり1年ほど毎日仕事を続けながらうどんの修業をした。本当に信濃屋のうどんの味が出せるのかその確認のためだった。信濃屋のうどんの味とは同じ修業をしてもできる人とできない人が出るほど天賦の才が必要なものであった。幸いというか精進の末信濃屋の味を継ぐ技量を身につけ先代の父親に認められた。 現在も来店するお客さんに「うどんの味はいかがですか」と気さくに声をかけてくれる。「濃かったり辛かったりしたら直しす」と厨房から出てきて一人一人のお客さんに確かめる。自分の味は大事にしているが常にお客さんの方を見ている姿勢。それはある意味限りない自信の表れなのだろう。 だって「お味は極上ですよ」 【信濃屋DATA】 住所:岐阜県多治見市上野町3-46 電話:0572-22-1984 営業時間 11時30分から売り切れ次第閉店(14時から15時頃) 定休日 日曜・月曜・火曜の3日間(仕込み日) 最寄り駅 JR多治見駅徒歩10分 駐車場あり Yahoo!地図情報信濃屋付近
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※メニューや料金などのデータは、取材時または記事公開時点での内容です。

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