フレンチ/フレンチ関連情報

イルプルー・シュル・ラ・セーヌ(代官山)(2ページ目)

フレンチガイドとして初めてパティスリーを取り上げます。それだけ価値のあるイルプルーのお菓子達。あまりメディアには出ないお店ですが、数少ないホンモノの一つです。

嶋 啓祐

執筆者:嶋 啓祐

フレンチガイド

洋菓子
代官山に移転して13年が経つ

素材がまるで生きているかのように

それからしばらくして、イル・プルーは代官山の旧山手通りの新築ビルに引っ越してしまった。現在はメゾン・ポール・ボキューズが入ってきたビルと言えばわかりやすいかもしれない。

私が感じるイル・プルーのケーキは素材、つまりフルーツやカカオ、卵など素材の味を強く引き出していると感じるところ。それは無理して引き出しているのではなくて、素材が持つ自然な味わいをそのままシンプルに表現したら、とても強い味に仕上がった、という風に感じるケーキなのだ。

だから、甘さを抑えた~とかいうへんてこケーキとは一味も二味も違うものだ。

書籍
お菓子関係の著作が並ぶ店内
クリスマスの時に予約のみで販売されるブッシュ・ド・ノエルは毎年の楽しみだ。シャンパーニュフレーバーがあったが、それはもうシャンパーニュのためのデザート。どのケーキやムースも味わいの輪郭が非常にはっきり出ていて、舌が感じるインパクトは相当強い。なので、万人ウケするケーキではないのかも知れない。中には強すぎる、甘すぎると明らかな拒否反応を示す友人がいるのも事実。

オーナーシェフの弓田亨氏とはお店で一度だけお目にかかったことがある。朴訥とした感じの方で、コートドールの斉須シェフの印象と重なるものがある。その時に一冊の本を購入したのだが、その本のタイトルは『狂った食の実態を暴く、破滅の淵の裸の王様(文芸社)』。2001年5月に出版された本は、私が思うに世に広まることはなかったのではないだろうか。

フランボワーズ
見た目は普通だが、食べてびっくりの味わい
ところがその本には昨年から続く、日本の浅はかな食事情を見越して7年も前から警鐘を鳴らしていた本だったのだ。この本については最後に少し書いてみたい。

さて、イル・プルーのケーキの味を私は正確に表現できるだろうか。。

「フランボワーズとショコラ」は爽やかなフランボワーズの爽やかさとショコラの甘さがとてもエレガントに重なる一品。この味覚が口の中でずっと続けばいいな、と思わせる優しい味が特徴。

オペラ
味わいが飛び出してきそうだ
「オペラ・ノワゼット」はカリッとした歯ざわりとカカオの香りがじわっと込み上げてくるもの。注意深く一つひとつの味を探したのだが、一見単純に見えるデザートでありながら味わいは複雑で、使っている素材がまるで生きているかのように舌を刺激する。それもとても優しく撫でるように。

ケーキ以外にもキッシュやタルトなどのお惣菜も揃う。焼き菓子やゼリーなどのバリエーションも豊富だ。秋になるとショコラが並ぶ。

酸っぱいものは酸っぱく、甘いものは甘く、というように味というものはこういうものかという味の原点を感じることができるはずだ。

キッシュ
フランスの郷土料理が並ぶ
このイル・プルーはありがちな多店舗展開はせずに、料理教室、地方都市での講演や教室など啓蒙活動に力を入れているところに弓田氏の変らない信念があるのではなかろうか。。確かにデパチカに出せば話題になって売れるだろう。でもそれでは何も変らないことを氏は知っているはずである。

目の届く範囲で地道にホンモノのお菓子、そして料理教室を運営し健全な「日本の食」を広め伝える姿勢は愚直なまで地味に映る。しかし、それを継続し、20年もの間店を切り盛りし、3000人を超えるお菓子教室の卒業生を持つ。
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