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クロワッサンも実に味わい深いもの |
非常に厳しい世界をホンモノという揺るぎない信念が温かく包み込んでいる
確か1988年位だったろうか。代々木八幡駅の近くの路地に小さなケーキ屋さんが2軒並んでいた。向って右側はごく普通のケーキ屋さんだ。一個250円とか300円のケーキを売っていた。それ以上でもなくそれ以下でもない普通のケーキだった。
向って左手のケーキ屋さんも見た感じごく普通のところ。ところが値段を見てびっくりだ。一個500円以上のものばかりだ。20年近く前の物価から考えればその値段はずばり「高~い」となる。しかし鮮度を保つための温度管理も徹底していて持ち帰りの時間を細かく聞かれ、適正なドライアイスの量が仕込まれていた。レジのところには「社員募集。非常に厳しい仕事ですが確実に技術が身に付きます。」といったようなことが書かれていた。
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プロヴァンスから届く蜂蜜。すっかり虜になってしまった。 |
当時人事部で採用の仕事をしていたのでつい、そこに目がいってしまったのだが、そのケーキ屋さんこそが今回初めてフレンチして取り上げるパティスリーがイル・プルー・シュル・ラ・セーヌだ。
1990年に友人の結婚式のためのウエディングケーキを注文したことがあった。長方形のケーキはヌガー・グラッセで確か5万円くらいしたような気がした。無理やりお願いして明治記念館まで配達をお願いし、運んでくださったのが加藤さんと言うパティシエール。聞くと同じ店で仕事をしているパティシエとご結婚されたと聞いた。注文を受け付けてくださったのが森さん。みなさん、とても感じのいい方ばかりの店だった。(皆さん、お元気だろうか)
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恐ろしく余韻の長いゼリー |
あれから20年近く経つがその小さなパティスリーは記憶に鮮明に、そして強烈に残っている。ある意味、私の味の記憶の中でもその当時、いや、今もそうだがイル・プルーのケーキの味はとてつもなく強烈だった。それはこれまで全く感じたことのない、新鮮で、力強く、シンプルで、作っている方の独自の世界観が感じられるものだったのだ。