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テーブルは4卓14席ほどだ |
フォアグラと筍のマリアージュ
ダイニングに無駄なものはなく、ワイングラスなど、およそレストランにおいて視界に入りそうなモノは何一つ見えない。ワインセラーさえ、一体になった棚に隠されている。リストはない。あるのはフランスワインのみ。ふわりと気品あるマダムは「はい、お客様と相談して選ばせていただいております。」今日は1人と言うこともありグラスのお任せでお願いすることにした。料理も地のものを中心にお任せである。
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瀬戸内の鯛は格別だ |
クレマン・ダルザスから始まったたった一人のディナー。ほんのりと甘さも感じるアルザスのスパークリング。煌く泡立ちがテーブルに華やかさ連れて来る。左隣の賑やかなご夫人達と右隣の会食席に挟まれ、楽しい会話が妙に心地良いBGMとなり、多分反響が微妙にライブ感があって、聞こえるか聞こえないかの微妙な音量で届くクラシック音楽と混ざり合い、不思議と退屈することがない。
鯛のリエットにイクラが5粒。小さなアミューズに優しさが滲み出る。この瞬間から身体も頭も覚醒し、料理への集中力が格段に高まってくる。何故だろうか、こんな経験はなかなかない。
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蛸のスモークに小さなこだわりを感じる |
野菜のテリーヌと軽くスモークした瀬戸内の蛸のマリネ。野菜には見事に野菜の味のみだ。塩はほとんど感じられない微妙な味わいながら、素材をつなぐジュレに僅かに感じられる潮の香り。何てことのない料理に見えるかも知れない。一つひとつの野菜を糸をつむぐように丁寧につなぎ、サフランのソースは野菜の味をさらに深めるものとして添えられる。蛸を口にしたときに感じる食材の持つエネルギー。ひと手間かけたスモークに素材の旨みをさらに高める料理人の気持ちがぐっと込められているかのようだ。
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フォアグラのソテーの見本のような一皿だ |
シェフのスペシャリテと謳われるフォアグラのソテー。そろそろシーズンも終わる筍が添えられる。濃厚なソースをたっぷり纏うフォアグラの質感はおよそ最高級のもの。ソースに山椒が微妙に隠されており、味覚の覚醒を持続させるいいアクセントになっている。筍にも染みこんだ甘みを、グラスで運ばれたリースリングが爽やかに流し去る。ワインのセレクションも非の打ち所がない。サービスはマダム1人で担当しているが席数が14席足らずなので、何かが遅れてどうなるということもない。
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ぜひソーヴィニオンンブランと合わせたい |
スズキのポワレにブイヤベースのスープ。パリッと仕上がったスズキの皮にほっこりと肉厚のスズキ、そして優しく仕上げたソースが潮の香りを運び込む。この辺りから赤ワインはブルゴーニュからドメーヌ・シェブロの登場だ。まあ、これは比較的よくある料理、そしてソースだが、決め手は真ん中に鎮座するスズキの質感。新鮮であることは当然だが、ナイフを入れたときのむちっとした弾力があるかどうかだ。