フレンチ/東京のレストラン

ピエール・ガニエール・ア・東京(青山)(2ページ目)

今一度、ヌーヴェル・キュイジーヌを考えてみたくなるガニエールの料理。料理とは何か、進化とは何か。料理とインタビューを交えた新しい世界を感じていただきたい。

嶋 啓祐

執筆者:嶋 啓祐

フレンチガイド

フランス料理
スーズとはリンドウの根から作られたフランス産リキュールを言う

料理に求めらるクリエイティビティ

料理はクオリティの高い軽さを見事に実現している。ガニエールにしかできない料理とはこういうものなのかも知れない。アミューズは星のように散りばめられ、どれから摘まもうかフォークの前に気持ちが贅沢な悩みを抱えることになる。

スーズの香りを漂わせるトウモロコシのスープは中からバブルが湧き上がるマジックのような料理。大根とイクラを添えたバースニップのシャンティはほのかな大根の味わいが全体を包みイクラが弾けたところで日本の食材がフランス料理として蘇る。


フランス料理
贅沢な秋の味覚が詰め込まれた一皿
コキーユ・サンジャックはその新鮮さをさらに活かすかのごとく、栗のヴルーテに浸され洋梨とオレンジを従えて、新しい味となって送り出される。これも上品で軽いが後に引く余韻は恐ろしいほど長く、そして深い。さらに浸されて溺れてしまいそうな一皿だ。

ガニェール氏とのインタビューを続けよう。

-ここ最近はクリエイティビティのあるフランス料理に勢いがあるように見えるが、パリを含めた全体から見た流れはどうでしょうか?

「思えばヌーヴェル・キュイジーヌと叫ばれてフランス料理がソースをたっぷり使ったものから素材の持ち味を活かした新しいスタイルの料理に変ってから実は30年という時間が経っている。
フランス料理
質問の意図を正確に聞き取り、言葉を選んで話し始める
多くの料理人が理解しているように、フランス料理の素晴らしいところは伝統を活かしつつ新しいものを求めていくエネルギーがあるということだ。ヌーヴェル・キュイジーヌはますます変化しているんだ。現代フランス料理には軽さを求めていきたい。バターやオイルを極力押さえ、それでいながら印象的で味わい深いものを作ることが大切だ。」

パリの店舗は毎夜世界中からガニエールの繰り出す現代フランス料理を求めてVIPが集まる。伝統を活かしつつも創造性溢れる、驚きのある料理をもって応えない限りレストランの明日はない。三ツ星のレストランの宿命とはそういうものなのかも知れないが。

日本で初めてミシュランガイドが発刊された。星を持ったシェフの栄枯衰勢はここから始まる。星を取って浮かれたレストランは衰退し、しかし、名のない料理人が一気に表舞台に登場する機会が与えられる。ニースの松嶋啓介氏のように。

ガニエール氏はかつてサンテチエンヌに持っていたレストランから撤退し、失意の日々を過ごしていたと聞く。しかし、自分の技術を信じ、パリで名声を勝ち取るに至ったことは良く知られていることだ。もちろん彼自身はそのことを今や語ることはない。

フランス料理
ワインのセレクションも楽しい
想像を絶するプレッシャーとの戦い。それを幾度も乗り越えてきた彼の表情は意外に澄んでいることに驚く。

「急いで事業を拡大することには興味がない。」この2年間でレストラン、カフェ、デザートと3つの業態を作り上げた今日、拡大から来る歪を見極め、土台を固めることに集中するという。

さて、次は魚料理の登場だ。
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