ホテルプルミエール箕輪（福島県猪苗代町）(2ページ目)

時間が止まる秋の午後

時のないホテル

秋を感じさせるリゾートの入口は静かだった。緑は最後の明るさを表現し、感じる風は春でもなく、夏でもなく、紛れもない秋の風。ロビーに佇むゲストはゆっくりとお茶を楽しみ、大きな窓の先に見えるスキーのゲレンデと緑の芝生はまるで時間を止めるかのような存在となって視界に張り付く。

「時のないホテル」はユーミンの代表作だが、まるでその楽曲が流れるような、そんな静かなホテルがここにあった。アルバムは違うが大好きな「経る時」がもし流れていたら気絶するかも知れないという、自己倒錯の世界。（すいません、個人的な話で）

一つの料理として存在感がある小さなタルト

ホテルプルミエール箕輪の特徴は、国立公園の中にあることを実感できる眺望と、そしてレストランだ。和食、中華に加え、フレンチを楽しめる「サン・ダルジャン」は予想以上の味わいをもたらすクラシックなレストランだった。

ベーシックなコースは6930円と11550円の二種類だ。今日は6920円のコースを選択。

アミューズに用意された「オニオンのタルト」は古典的なおつまみ。クミンの風味をさり気なく効かせ、中に潜む甘いオニオンはさくっとした生地と絡み合いほのかな余韻を残す。何か懐かしさを感じさせるスタートの一皿に次への料理に期待が膨らむ。

レンズ豆の余韻が心地よい前菜だ

「鶉とフォアグラ、レンズ豆のミルフィーユ仕立て」は塩の優しいフォアグラにレンズ豆の風味と味わいが溶け合い、あっさりとした中にもそこそこのボリューム感を感じる前菜だ。添えられた塩と胡椒を途中から混ぜることにより、味わいが微妙に変化してくるのが面白い。

窓の先には先ほどロビーで見たゲレンデの風景がさらに近くに広がる。遠くには箕輪山の山頂が見えるが、標高は1700メートルほど。夏や冬の賑やかさのちょうど谷間の時期には時を止めてしまう、そんなことを考えている時ににサービスされたのは松茸の小さなスープ。ほっとする味わいとはこのことだろうか。香りを楽しみつつ、味わいは全身に染み入る心地よさ。

本日一番の料理だ

さて、魚料理は鯛やホタテをクレピネットで包んだ料理だ。クネルのような形状だが、包み込まれた中の素材はほぼそのまま活かされ、香りと味わいがしっかり閉じ込められている。軽めのバターで仕込まれたソースは優しく、しかし、余韻は長い。
ワインはソーヴィニオンブランが用意された。シャブリの近くのAOC Saint-Brisのワイン。意外と骨格がしっかりとして味わいが深いことに驚いたが、このレストランのワインの懐の深さはとてつもないものだったのだ。